世の中にお金を回そうと必死な政府・自民党の経済運営。4月からスタートする新しい税制では、企業への減税を拡充し、従業員の給与アップをした会社には更なる優遇措置を取る。“アベノミクス”は家計対策の方も抜かりはない。中でも目を引くのは、おじいちゃん、おばあちゃんから孫に教育資金を贈与する場合は、孫一人につき1,500万円まで非課税として扱う制度だ。
背景には、若い世代への所得移転を促す狙いがある。「振り込め詐欺」の標的にされた高齢者が何千万円もだまし取られたニュースには、犯人の卑劣さへの憤りとともに、「お年寄りはこんなにお金を持っているのか」と驚いた若い世代も多かったのではないか。
日本の個人金融資産の6割は60代以上の高齢者が持っている。一方、若い世代は年々給料が減り続ける上に住宅ローンや子供の教育費などの負担に苦しんできた。現役世代が使えるお金を増やせれば、その分、消費に回すことが期待される。さらに富裕層への税率が上がり、相続増税への動きも進んでいる。ズバリ、お金持ちのおじいちゃん、おばあちゃんが「相続税で国に持って行かれるよりは…」と考えるように仕向けた制度ともいえる。
もちろん、これには批判的な見方もある。「裕福な家族同士でお金をやりとりするようになれば、所得を社会的に再分配する相続税の意義が薄れ、社会的な格差が固定する」といった意見だ。しかし、高齢者は年金などで明らかに若い世代より得をしているし、若い世代への投資には社会的に積極的だったとは言い難いのではないか。率先して孫への教育資金に回すようになれば、若い世代への所得移転が部分的にでも実現すると期待したい。
さて具体的な教育贈与に関してだが、不正な財産隠しを防ぐため、実際に教育資金に使ったことを証明する領収書を金融機関に提出しなければならない。金融機関にとっては、おじいちゃん、おばあちゃんとのコンタクトポイントがビジネスチャンスなわけだ。大手の信託銀行は、相続増税対策として教育資金贈与の商品の開発を進めている。一方、教育資金は学校や学習塾のほか、スポーツ、英会話なども対象になるという(2013年3月30日・日本経済新聞)。少子化が悩みだった関連産業にとって、久々の市場拡大の好機でもある。
さて、富裕層の個人顧客を持つ税理士にとっては、今回の件はピンチでもあり、チャンスでもある。信託銀行以外にもメガバンクや地方銀行も同様に教育贈与関連のサービスを始めることが予想されており、相続増税対策でお客が増えそうな見通しが出ていたところにライバルが出現というわけだ。相続対策で囲ったお客に満足してもらうためにも、教育贈与制度という新しい選択肢を示し、信託銀行などのより良い関連商品を提案できるように機先を制しておきたいところだ。