会計業界において、転職はキャリア形成上のターニングポイントです。
「スキルアップ」「ワークライフバランスの確保」「年収アップ」等、様々な動機・背景や希望があり、毎年多くの方が転職活動をされています。一方で、残念ながら希望通りの転職にならなかった方も多いのが会計業界。今回の会計トピックスでは、あえて転職失敗事例をご紹介し、転職活動の留意点などもご案内が出来ればと思います。
念願のIPO準備企業に入社も、まさかの頓挫。~朝令暮改は本当に存在した~
【今回の失敗者】
Kさん、28歳/男、公認会計士
Kさんは準大手監査法人出身の公認会計士。主に公開準備企業や新興上場企業の財務諸表監査を担当されていました。監査法人在籍時にはクライアント目線での対応やアドバイスを心掛け、経理担当者や往査先の役員からも一定の評価を得ていました。
監査実務経験は5年目、監査法人という特性上、クライアントとの関わり方に限界を感じていたKさんは違う角度から企業に貢献したいと考え始めるようになります。そしてKさんが辿り着いた答えは、「ベンチャー企業で企業の成長に寄与する。」というものでした。
IPO準備企業で今までの経験を活かしたい。
徐々にベンチャー企業への転職を意識し始めてから数か月後、Kさんのもとに監査クライアントから「うちに来ないか?」というオファーが届いたのでした。しかも“IPO準備に関する内部管理体制の構築”をお願いしたい、という嬉しい依頼だったのです。Kさんはその企業のことは熟知していたつもりでしたので、二つ返事で入社の意向を伝えたのでした。
入社してびっくり、現場はIPOに後ろ向き!?
Kさんは遂に今までの経験や知識を発揮することが出来ると期待に胸を高鳴らせて内定先の企業に入社します。入社した会社は今人気上昇中のアプリ開発を行っているベンチャー企業でした。まだ従業員数も少なく発展段階の企業だったため、IPO自体は数年後を予定(3年以内と社長からは聞いていました)、Kさんは経理フローの見直しや内部統制構築の役割を担うことになります。
最初は「管理体制が弱いのは想定内、これからだ。」と感じていたKさんですが、次第に企業内部の隠された意見の相違に気づき始めます。それは、社長・経営幹部と現場との間に“IPOに対する意欲面でギャップがある”というものでした。今までKさんが主にコミュニケーションを取っていたのは社長や役員でしたが、日々一緒に仕事をするのは経営管理部の経理担当者や経理部長になります。その管理部の現場職員と話をしていくうちに、現場はIPOのことを真剣に考えていない、余計な作業が増えるのは歓迎しない、という本音を持っていることが分かってきたのです。
そんな中、1年半Kさんは現場への啓蒙活動や実作業面での改革に着手をしていったのですが、突然社長から「IPOは諦める。今は本業への集中が必要で現場の意向を優先せざるを得なくなった。」と告げられたのです。まさにKさんにとっては青天の霹靂、Kさんのモチベーションも一気に下がる結果となったのです。
社長の方針に現場が共感しているか? 確認を怠ると予想外の展開になることも。
今回のケースに類似した事例は意外と多いものです。
やはりベンチャー企業はスピードが命ですから、朝令暮改ということも珍しくはありません。Kさんにとって入社した企業は以前の監査クライアントだったこともあり、「この会社に関しては自分が一番知っている。」という自負もあったのでしょう。しかし、Kさんは一番大事なことを確認していなかったのです。それが「現場の本音」です。
社長はビジョンを掲げて会社を動かす立場、一方で現場の職員はその意向をくみ取って実際の業務を行う立場です。「経営者」と「現場スタッフ」の意識的ギャップを生じさせない為には、積極的かつ活発なコミュニケーションを取り続ける必要があります。実はKさんが入社した時点で、同社内での意識の差は大きくなっていたようです。
世の中には数多くのベンチャー企業が存在しますので、成長段階の会社に入る際には、社長と現場職員の気持ちが同じ方向に向かっているかも、できる限り確認をしましょう。
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(文/シニアコンサルタント)
カイケイ・ファン ナビゲーターによるコメント