私は当コラムで、税理士と公認会計士を中心に、士業の独占業務に関する争い、いわゆる業際問題について頻繁に取り上げてきました。今回は、決して会計人にも無関係ではない問題として、日本行政書士会連合会(日行連)と全国社会保険労務士会連合会(全社連)の間で発生した就業規則の作成業務について紹介したいと思います。
就業規則は申請書?帳簿?約款?
現在、就業規則を主に作成する士業が、社労士であることは疑いないところです。
常時10人以上の労働者を使用する事業者は、就業規則を定めて労働基準監督署に届け出る義務があります。そのため、この就業規則は、社労士法第2条1項の「申請書等の書類」に該当し、作成や届出代行は社労士の独占業務と考えられています。
労働者10人未満の事業者には、就業規則の届出義務はありません。全社連の見解では、この就業規則は「申請書等」ではないものの、同法第2条2項で社労士業務として定める「労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類」に該当するため、社労士の独占業務とします。
しかし、現状、労働者10人未満の事業者の就業規則は、行政書士も作成しています。日行連の見解では、就業規則は事業者と労働者の間で取りかわされる「約款」であり、契約書など「権利義務に関する書類」(行政書士法第1条2項)であるため、行政書士が作成可能とします。これが、両士業団体の間にくすぶる、対立の火種となっていました。
ついにバトル勃発 日行連は「強硬策」
全社連が動いたのは平成24年1月。日行連に、就業規則作成が社労士法に抵触するとの疑義照会を行いました。この照会の書面には、平成23年12月に、厚生労働省に全社連の見解について照会した際の「貴見のとおり」との回答文書が添付してありました。
そして平成26年9月、日行連は、この問題に関する新たな文書「就業規則の作成業務について」を全社連に提出。その内容は、事態の急展開を示すものでした。
日行連の文書には「外部の有識者から意見書を頂戴するなど」の検討を行った結果、「労働者が10人以上であるか10人未満であるかにかかわらず、就業規則の作成について行政書士が排除される理由はないとの結論に至りました」と、従来の見解からさらに突っ込み、すべての就業規則の作成が社労士と行政書士の共同独占であるとの記載があったのです。
それに対する全社連の回答は、「このことについて貴会と協議する余地はありません」でした。
存在感が増す就業規則 会計人も議論に注目を
この業際問題は、現在のところ、法解釈の見解について厚生労働省の言質を得ている全社連に分があると考えられますが、両団体による省庁、また政治への働きかけが行われることも予想され、今後の展開は読めません。
ホワイトカラーエグゼンプションの導入議論など、新たな労働形態に関して、政治の動きが見られます。また日行連の主張の要点である「約款」については、民法改正でその法的位置づけが明確化される途上にあります。労働契約の見直しが様々な会社で行われることが予見される時期に、就業規則に関する対立が表面化したことも、偶然ではないのかもしれません。
広く会社経営の相談を受け、他士業と連携しながら業務を行う会計人も、議論の行方について気に留めておいたほうがよさそうです。
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