公的年金についてはさまざまな問題があり、不正確だったり誇張されたりしている報道が流され、国民の間に誤解が広がっています。年金問題の専門家以外の経済や政治の評論家ですら誤解が多いのです。
今回は、少子高齢化というキーワードが実態に即していないことを解説します。
実は、高齢化は終わっている
「少子高齢化」というキーワード、最後の「化」は直前の「高齢」のみに係るとしても、「少子」と「高齢」の双方に係るとしても、「高齢」に係るのは間違いありません。
しかし、公的年金に限っては、高齢者の割合が高まっているという意味での「高齢化」は終わっているのです。すでに団塊の世代(昭和22~24年生まれ)が老齢年金の支給開始年齢の原則である65歳以上になりました。今後半世紀を見渡す限り、丙午の翌年(昭和42年生まれ)から団塊ジュニア(昭和46~49年生まれ)のピークの年(昭和48年生まれ)までの世代が65歳を迎える7年間を除くと、65歳になる人口は減る一方なのです(誤差程度の微増の年はある)。
また、現在の団塊世代の人口と比べると、団塊ジュニアのピークの年も現在の人口も少なく、さらに今後約20年、団塊ジュニアが65歳になるまでに死亡による人口減もあります。
そのため今後、老齢人口はどんどん減っていくのです(団塊ジュニアが65歳になるころは除く)。このような状況で「高齢化」というのはたいへん無理があるのです。
なお、以上は公的年金(の老齢年金の支給)に限っての話であり、団塊世代の後期高齢者(75歳以上)入りを控えた介護・医療・火葬場不足などについては、高齢化の問題は終わっていません。
少子化は想像以上に深刻である
一方、少子化は加速する一方です。
15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計した合計特殊出生率(以下、出生率)を見ると、第2次ベビーブーム終了以降、平成17(2005)年まで下がる一方であったのが、その後はやや回復しています。回復しているのにもかかわらず日本の出生数が増えないのは、子を産み育てる世代(以下、子育て世代)の人口が減ってきているためです。
人口維持に必要な出生率は、2.07〜2.08と言われていますが、平成25年は1.43、その後平成26年1.42、平成27年は1.46となっています。最低だった平成17年の1.26からは回復しているものの、まだまだ人口維持の目安には程遠い状況です。
なお、いったん少子化が進むと、出生率が2.07〜2.08に回復しても、人口が維持できるようになるのは、人口がそっくり入れ替わるくらい時間がかかります。日本は、第2次ベビーブームが終わると出生率が2.07〜2.08を下回り、人口減が始まるところ、その後30年以上人口が増え続けました。その理由は、寿命の延びも少しは影響していますが、人口に占める子育て世代の割合が多かったことが大きいのです。2.07〜2.08を下回ってもすぐに人口が減らなかったのと反対に、回復してもすぐに人口が増えるようにはならないのです。
賦課方式(世代間扶養)方式を採用している日本の公的年金は、インフレに強いメリットがある反面、年金を支給される人口と保険料を納付する人口のバランスの影響が大きいのです。そして、その影響の調整は、過去には基礎年金部分の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げ、今後は、マクロ経済スライド、年金積立金の取り崩しなどで行っていくことになっています。
しかし、さらに少子化が加速すると年金財政は苦しくなって、支給額の切り下げや保険料の引き上げ、国庫負担増加などの問題が出てくる可能性が高いのです。
もっとも、前述したように公的年金に限っていえば、「高齢化」の方は終わっているので、少子化対策を十分に行って保険料納付世代の人口減のペースを落とすことにより、緩和することは可能です!
少子化対策(≒子育て支援)は、子育て世代・子育て家庭のみならずいずれ年金を受給するすべての人にとって、とても重要で深刻な問題なのです。
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(記事提供 社会保険労務士・年金アドバイザー 八木 徹)