注目を集める「ヤンキー」
「ヤンキー」という言葉を聞くと、どんなイメージを持つだろう。リーゼントの金髪に、派手な衣装で着飾り、時には成人式で大暴れして警察のご厄介になるような「不良」を思いつくだろうか。面白いことに、去年あたりから政治・経済・社会の視点から「ヤンキー」を読み解く動きが出ている。
先鞭をつけたのは東洋経済。昨年3月、「ヤンキー消費をつかまえろ」という特集記事を組んで注目を集めた。ただ、ヤンキーといっても「不良でもなければ、暴力、犯罪とも関係ない」(記事より)視点で見ているのが目を引く。地元をこよなく愛し、都心部に通勤する同世代の若者たちと違う消費志向を持っているようなのだ。
マイルドヤンキーという新しい消費者像
そんなヤンキーたちの姿を分析した本がいま売れている。「ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体」(幻冬舎新書)。著者は博報堂生活総合研究所の原田曜平さん。長年、若者向けのマーケティングや商品開発を手掛けるうちに、新しい階層の動きに気付いたようなのだ。原田さんはヤンキーが「やさしくマイルドになった」と指摘し、昔ながらの強面も「残存ヤンキー」は今でもいるものの、見た目は普通な「地元族」が主流になってきているというのだ。
定性的な印象論に終始しているのではなく、市場調査の一環で135人の若者たちにもインタビューをしているので説得力もある。著書で紹介される「マイルドヤンキー」像は「上京志向がなく、地元で強固な人間関係と生活基盤を構築し、地元から出たがらない若者たち」。数年後の昇給額を尋ねると5万円という答えが返ってくるなど堅実・かつ保守的な志向で、一昔前の「東京の真ん中で一旗揚げてやる」的な成りあがり志向とは対照的だ。「家を建ててはじめて一人前」「スポーツカーより仲間と乗れるミニバンが最高」といった独特の消費志向を持っているという。
「下流社会」の若者より先鋭化!?
少々既読感があったと感じたのは、2000年代半ばにベストセラーになった「下流社会」でも描かれていた郊外在住の若者たちとダブっている印象があったためだ。あの当時、勤労・勤勉意欲といった上昇志向に欠けている“下流”の若者たちが紹介されていた。同著を書いた三浦展さんと原田さんは共著もあるそうで、影響を受けているのは確かだろう。
もちろんマイルドヤンキーが下流社会の若者の系譜にあるとしても、この間の社会環境の変化は考慮せねばなるまい。経済、社会のグローバル化に拍車がかかると、どの国でもそこから零れ落ちたり、あるいは反発したりする動きが出てくる。「ヤンキー経済」で紹介された若者の事例の中には、新宿まで電車で20分程度の練馬の石神井に住んでいるのに、都心部に出たがらない等、地元志向の先鋭化が「下流社会」よりも進んでいた。
市場の変化を見極める大切さ
会計士や税理士のかたでも、大手事務所で大企業を相手に仕事をされている方は、業務上のカウンターパートナーは企業幹部や経理責任者といった“ホワイトカラー”が多数を占めているだろう。ご自身も難しい国家試験をクリアしているので、都心の高感度層・高学歴層の動向に親近感を持ちがちだと思うが、俯瞰してみると、郊外や地方にもっと大きな別の「マーケット」が存在するものである。
「ヤンキー経済」では、都心部に好んで買い物に行くよりも、東京の西多摩地域にある大型ショッピングモールで事足れり、という若者像が紹介されている。郊外や地方に育った人ならば自分の体験や価値観とそぐわないかもしれないが、この10年で大型ショッピングモールの進出が続いたことで、ある程度の買い物環境が郊外でも確保された影響のようだ。ヤンキーを巡る昨今の言説は、時代の変化、市場の変化を冷静に見極める大切さを教えてくれているような気がする。
(文/新田哲史=コラムニスト、記事提供/株式会社エスタイル)