このほど閣議決定した2014年版の「中小企業白書」に、起業に関する気になる内容が盛り込まれています。2012年の時点で、起業を希望する人は約84万人で、1997年の167万人から半減したとの調査結果です。
コスト低減が事業創出につながっていない?
経済が好転するために必要となるのは、新規事業創出による投資と需要の増加。今回の白書はアベノミクス開始前の2012年のデータではありますが、創業が低調な状況が、数年で劇的に変わるとは考えにくい気もします。
起業が増えない原因が、需要が飽和状態にあるといった「経済学的」なものなのか、人々の安定志向や起業・経営に関するネガティブイメージなど、いわば「社会学的」なものなのかについてははっきりわかりませんが、おそらくその両面があるものと思われます。
「ノマド起業」への注目からもわかるように、IT環境の充実により、コスト面で事業創出のハードルは低くなりましたが、起業に様々な意味で希望が持てない状態であれば、そこに乗り出す人が増えはしないでしょう。
税理士には「起業サポート」を業務として掲げる方が多くいます。印紙税が節約できる電子定款による会社設立代行、スタートアップ時の記帳代行や経理業務の整備、創業融資申請などを行う業務です。
しかし、資金が潤沢ではない起業者への業務は収益性の低いものになりがち。記帳代行業務の低価格化も進んでいます。加えて、起業家が減少する現実があるとすると、税理士のマーケットもどんどん縮小することになってしまいます。
税理士は創業者ネットワークの中核になれる
起業サポート業務を行う税理士の理想は、顧客の会社が大きくなり、将来的に収益源となる顧問先になってくれることです。起業者が儲かる事業を創出することが、税理士の将来にもかかってくることになります。
ここでよく語られるのが、税理士は、起業者が付加価値業務に乗り出すための、より積極的なコンサルティングを行うべきとの考え。とはいえ、税理士による経営コンサルについては自戒も込めて「言うは易し行うは難し」。税務会計以外の部分、例えば有望市場の見極めなどに自信を持っている人は多くはないでしょう。
私は、税理士の起業に関する役割では、コンサルもさることながら、先に「社会学的」と表現した部分への支援が重要なのではないかと思っています。
税理士は多くの企業と関わっています。起業に強い不安をもち、孤独を感じている人にとって、税理士への相談をきっかけに経営に積極的な人たちのネットワークに入れるというのは有益です。リアルにしろSNSにしろ、経営者同士が交流し、情報を交換できる場を税理士が「ハブ」となってつくる動きは各所で発生しています。
その際忘れてはならないのが、開業税理士は、自身も経営者であることです。勤務税理士も、冒頭の調査で触れた「起業を希望している人」がたくさんいると思います。有益な起業サポートは、税理士が起業者に共感を持ち、心でつながることから始まるのかもしれません。