3月決算が終了し、税理士は「ほっと一息」といいたいところですが、いかがでしょうか。今年度の決算では、喧伝される「景気回復」の実態はいかばかりか、といったことも興味深いところです。
申告書別表は税理士の「秘術」!?
決算は一年間の経営の成績を示すものであるだけに、経営者も、出される数字に強い興味をもっています。しかし、その後決算書をもとに行われる税務調整となるとアレルギー反応があります。
多くの経営者にとって、決算書から税額を割り出す作業には謎が多く「別表4」などを作成する税理士は、なかばマジカルな存在。じつは、小規模企業では計算はそれほど複雑ではない場合も多いのですが、別表に関する知識と技術は、税理士の利益を生み出す「魔法の杖」となっています。
税理士としてのバイアスがかかっていると指摘されることは承知で申し上げると、私は中小経営者が、別表に代表される税額の計算方法について詳しく知っている必要はないと思います。会計上の利益と税務上の所得の差は「税効果会計」などともかかわり、大企業には大きな問題となりますが、中小企業は重要ではありません。
経営者にとって重要な「会計」は、財務会計や管理会計です。融資などで外部に提供する資料として、またコスト構造や業績の変化等をすばやく見極めるための材料として、決算書を「使える」ものにすることが大切です。
しかし、残念ながら、中小企業の会計基準はまちまち。大企業では、国際会計基準の「IFRS」の適用が侃々諤々の議論となっていますが、中小企業にも、負担なく導入でき、また事業の実態を過不足なく表し、外部の信用に足る基準が必要でしょう。
税理士に、会計の重要性を啓発する役割を期待
中小企業向けの主な会計基準には、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会、日本商工会議所、企業会計基準委員会が協力し、会計参与設置会社を想定して策定された「中小企業会計指針」より小規模の企業の実情を勘案して、中小企業庁、金融庁の協力のもと、経営者団体などが中心となって策定した「中小会計要領」があります。
中小企業庁は3月、「中小会計要領に取り組む事例65選」を公表。これは、同要領を導入したことで、コスト削減や経営計画の策定、金融機関への情報開示につながり、業績に良い影響が出た事例を紹介するものです。多少「手前味噌」のきらいもありますが、会計を武器にする企業として「一皮むける」ためのヒントとして大いに参考になります。
会計への意識変革により、会社は大きくかわります。はっきりいって、どのような会計を行っていても、別表調整さえ行えば税額を出すことはできますが、財務諸表には課税所得だけではなくさまざまな情報が詰まっており、経営戦略において重要な存在であることを知ってもらう必要があります。
会計の専門家として利益を生み出し続けるには「別表」的な知識を門外不出の「秘術」として持ち続けるだけでは限界があります。自計化など、会計知識の共有化を推進することが税理士に期待されており、またそれが顧問先の業績アップ、ひいては自身の利益になることを忘れてはならないでしょう。