日税連は6月26日、平成27年度税制改正に関する建議書を公表しました。建議には消費税や法人税に関する意見等、重要な論点がいくつもありますが、このコラムであえて取り上げるのは、給与所得の扶養控除申告書への記載義務制度を選択制とし、「給与所得者が確定申告する機会を拡充すべきである」との意見です。
税収支えた源泉徴収・年末調整の「功罪」
現在9割が源泉徴収・年末調整のみで納税を完了しているサラリーマンに、確定申告の機会を増やそうとの提言に対し「税理士の仕事確保のためだろう」と勘ぐることは簡単です。実際、その面があることも否定はできません。しかし、そういった観点を抜きにしても、私は今回提言された「選択制」については賛成です。
源泉徴収と年末調整は、日本の税務行政、税収を支えてきました。なぜ本来税務署が行うべき仕事を事業者が行わなくてはならないのか、という議論は昔からあり、裁判で争われたこともありますが、サラリーマン世帯が大幅に増えた高度経済成長期に重要な役割を果たした制度であることは間違いありません。
しかし、その効率性の裏返しで、サラリーマンは自分がいくら税金を納めているかをほとんど知らないという状況ができました。私は当コラムで、特定支出控除、寄付金控除など、サラリーマンの確定申告について意識的に取り上げてきましたが、サラリーマンが自ら税務申告を行うことは、タックスペイヤーとして税金の使い道をチェックする意識を持つうえで重要だと思っています。
そして、日税連が選択制を採用すべき理由として、もう一つ挙げるのが「プライバシー保護」。サラリーマンは年末調整の際、控除を受けるために、今回建議があった扶養家族の状況、また生命保険の加入、住宅ローンなどの情報を会社の経理担当者に申し出ています。
文字通り社員が「家族」のように付き合っていたかつての会社の姿は変容しています。終身雇用、昇給、退職金等が保証しにくくなり、雇用の流動性も増す中、会社にプライベートのことまで委ねる制度は、時代に合わせた修正が必要なのではないでしょうか。
副業によるスモールビジネスの支援で「独立系サラリーマン」が増加する?
さて、年末調整の話題とは少し異なるのですが、私が給与所得者の源泉徴収制度との関わりでもうひとつ注目しているのはサラリーマンの「副業」です。
サラリーマンは、家族等の情報のほかに、翌年の住民税の額によって副業を含めた収入額まで会社に把握されてしまいます。私は、選択制で給与所得の源泉徴収を個人事業主の報酬の源泉徴収に近いものとし、総収入を会社に伝えずに済む制度があるべきだと思います。
現在も、給与以外の収入を源泉徴収(特別徴収)ではなく、自身で納める方法(普通徴収)はあるのですが、この制度は確立されたものではなく、自治体によって対応が異なるともいわれています。これが、副業を持ちたいと考えているサラリーマンの行動を抑制する原因となっています。
むろん、就業規則等で禁止されている場合は、従業員が勝手に副業をすることはできないでしょう。また、会社の業務を自分との直接契約で行うなどといった行為は、副業ではなく契約の横流しであり、横領・背任といった犯罪行為です。しかし、会社業務に支障のない副業であれば、会社に内緒で行っても何の問題もないはずです。
数年前、社員の副業を容認する大企業が増えているということが話題になりました。これは当然の流れだと思います。IT技術の発達もあり、初期投資を最低限にしながら、個人がスモールビジネスを始められる環境も整っています。
「副業支援こそアベノミクス『第3の矢』の秘策だ!」と気張って言うほどの自信はありませんが、個人のアイデアで新たな需要をつかむ「独立系サラリーマン」の能力が十全に発揮されるような制度設計を考えることは必要なのではないでしょうか。