政府税制調査会は6月、法人税制に関する議論をまとめた報告書「法人税の改革について(案)」を発表しました。法人実行税率の引き下げを始め、重要な論点がいくつも提出されており、今後の改正議論のたたき台として注目しておくべきでしょう。
所得税・法人税の差による節税にメス
法人実効税率の引き下げ策は、中小法人等への課税ベースの拡大とセットになっています。報告書でも代替財源に関する議論に関して大きなボリュームが割り当てられ、様々な案が提出されています。
報告書の中で、中小企業にとって衝撃的な方策が数々記載されている部分があります。それは個人事業主が株式会社等の会社形態に組織を変更する「法人成り」に関して触れた「いわゆる『法人成り』について」という項目です。
報告書では「個人事業主か法人形態かの選択に税制が歪みを与えるべきではない」とし、法人成りによる節税を抑制する必要性を強調しています。しかし、そのための方策として出される案が、法人成りに関する話にとどまらないインパクトなのです。
給与所得控除、軽減税率の縮小ねらう?
法人成りの目的として、会社の利益から役員給与を出すことで、法人と役員に課せられる全体の税額を下げることがあります。それについて報告書は、「給与所得控除など個人所得課税を含めた検討を行う必要がある」と指摘します。
つまり、ここで検討されているのは、給与所得者の必要経費の性格を持つ給与所得控除の縮小だと考えられます。すべてのサラリーマンを対象とした制度になるかどうかはともかく、制度変更がなされた場合に大きな影響を受ける人は多くなりそうです。
また、「法人税率引下げによって個人所得課税との差が拡大すれば、法人成りのメリットがさらに拡大する」とし、現在資本金1億円以下の中小法人に適用される軽減税率の縮小を示唆しています。
中小企業の留保金課税が復活?
さらに、個人所得課税の税率と法人税率の差が拡大することで「配当を恣意的に抑制して利益を法人内に留保し、個人所得課税を繰り延べる誘因が大きくなる」との問題も指摘。
ここで議論の訴状に上るのが特定同族会社注の留保金課税です。
報告書ではこの制度について、「特定同族会社の内部留保に対する留保金課税は、中小法人については適用除外とされているが、内部留保への過度の誘因を避ける観点から、法人税率引下げにあわせて適用を検討する必要がある」としています。平成19年に設けられた中小企業への留保金課税の適用除外の廃止を視野に入れていることがわかります。
語られているのは、法人成りについてなのか?
これらの方針は、法人成りによる節税に影響するのは確かですが、およそ「いわゆる法人成りについて」に限定した話ではありません。それよりも、すでに法人に「成っている」企業への影響のほうが大きいのではないかと思います。
2013年の総務省の個人企業経済調査によると、個人事業主のうち法人化を予定のある者は、製造業で2.2%、卸売・小売業で1.7%、宿泊・飲食業で0.9%、サービス業は0.8%です。少なくとも、今回の改革の方針が、この少数の人のみへ向けたものではないことは中小企業経営者、そして税理士が意識しておくべきでしょう。