厚生労働省の有識者会議「保健医療2035」はこのほど、社会保障財政を改善するため、「健康へのリスクを高める」とされる、たばこやアルコールの課税強化、そして新たに砂糖への課税強化を求める提言を行いました。
増税と新税で社会保障財政を改善?
この「保健医療2035提言書」は、団塊ジュニア世代が65歳になり、高齢化率が高まる2035年を見据えて、保健医療・社会保障等の政策提言を行うもの。
税制では、たばこ、アルコールへの増税、そして従来、品目別の課税はされていなかった砂糖に新たに税金を課すといった内容。これにより、医療費を削減するとともに財源も確保し、国の借金を減らすことになるとしています。
あくまで有識者会議の提言であるため、厚生労働省の税制改正要望、政府としての法案提出にそのままつながるわけではないでしょうが、厚労省で行われる税制に関する議論に大きく影響することになると思われます。
えっ、酒税って「そういうもの」だったの?
酒税やたばこ税には「嗜好品、ぜいたく品に課税する」という昔ながらの考え方があります。生活必需品ではないため、課税しても社会に混乱が生じず、また、担税力のある納税者からお金を集めやすいという性質があるため「有史以来」、長い歴史を持っています。
今回の提言では、これらの税目の医療費削減という政策課税としての側面が強調されています。これは、産業廃棄物にかかる税や、CO2排出に課税する環境税など、嗜好品課税から一歩進んで、明確に特定の消費行動等を抑えるために課税する「政策課税」の考え方です。
たばこ税は、最近、たんなる嗜好品課税から、政策課税に完全に移行した感があります。なぜそれが可能であったかというと、今は喫煙者にすら、たばこの「百害あって一利なし」との価値観が浸透し、いわば「絶対悪」の扱いになっているからです。
では、酒はどうでしょうか。酒は「百薬の長」といわれ、健康に対しプラス面・マイナス面があります。酒税が「健康に悪いから」「酒量を減らすため」に課税するものだという考え方は、今までもないわけではなかったでしょうが、改めて聞くと「酒税ってそういう税金なの?」と寝耳に水の印象を持つ方も多いでしょう。
「砂糖税」に関する理論的・現実的な疑問
そして砂糖への課税には新たな問題があります。
糖分は動物が生きるうえで必須なものですから、嗜好品というより生活必需品に近いもの。そして、医療費削減のための政策課税としても疑念があります。制度の内容にもよりますが、砂糖に課税されれば、課税回避のため人工甘味料が増えるとも考えられます。それは健康のために良いことなのかと問うと、かなり怪しいのではないでしょうか。
政策課税は、租税理論として比較的新しいものです。税制が、財源確保以外の積極的な意味を持つものであることは否定しませんが、課税の根拠や対象について不明確なまま実施すれば、意図しないマイナスの影響が発生することも忘れてはならないでしょう。
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