2015年7月5日の国民投票で、ギリシャはEUの要求する緊縮財政政策に反対していくと決議されました。ここ数年、同国の財政危機は幾度となくニュースなどで報じられており、デフォルト回避のためEUの要求を受け入れるのではないかと予測されましたが、国民投票の結果は「NO」でした。
今まで消費税の増税、公務員数の削減、財政に見合わない好条件の年金制度などの見直しなどの緊縮財政政策を行いましたが、4人に1人が就職できない状況です。さらに財政難に直面した他の理由として税収の低さも挙げられています。これは、同国民の納税意識の低さによる税金の滞納率の高さが原因ですが、今回はその背景に迫ってみたいと思います。
滞納率の高さを日本と比較してみると
2015年2月25日のウォールストリートジャーナル紙は、ギリシャの2014年末時点の滞納税額は760億ユーロだと報じています。日本円にして約10兆2,600億円というこの莫大な滞納額は、数十年にわたって累積したそうです。所得税滞納者は367万人、法人税滞納企業は44万7000社にのぼります。しかしギリシャの徴税力は弱く、政府は国民に税金を支払わせることに困難をきたしており、回収可能額もわずか90億ユーロだそうです。
ちなみに、我が国日本の政府の借金残高は、2015年3月末時点で約1,053兆3,572億円。消費税、所得税、法人税などの国税滞納残高は、平成25年度末で約1兆1,414億円となっています。対してギリシャの借金総額は約42兆円ですから、ギリシャの滞納率が財政にいかに大きな影響を及ぼしているかがわかります。
低い納税意識の歴史的背景
ギリシャの税率は、他の欧州諸国に比べて高いというわけではありません。しかしながら多くのギリシャ国民は税金を払うことを嫌悪しており、税金を踏み倒すことに罪悪感や恥辱感がありません。
同紙の取材で、アテネ大学のアリスティデス・ハツィス准教授は、「ギリシャ人は税金を(国による)窃盗とみなしている」「通常、税金は国家に支払わなければならない公正な対価だとみなされているが、ギリシャ人のメンタリティーはこれを受け入れていない」と答えています。この納税意識の低さは、歴史的・構造的な要因のためとしばしば指摘されています。ギリシャが15〜19世紀の長い間、オスマン・トルコ帝国に占領されていた頃、オスマン帝国に税金を支払わないことは、ギリシャ人としての民族意識を強めるとともに、愛国主義への表れであるとされていました。
低い納税意識の構造的背景
ギリシャ税法の仕組みも構造的な背景として挙げられています。ギリシャの公務員は国民の4人に1人だといわれ、給料も年金も民間企業より高く設定されています。税法の罰則が厳しくなく、納税が回避できる抜け道が多いようです。また、徴税方法が手作業なので回収が追いついかず、脱税や税務署職員の汚職が蔓延しています。小売店や自営業の店は家族経営が多いので、脱税がしやすいそうです。税金を踏み倒すことにより示されてきた愛国心は、今日では自国政府への不信感と変わり、滞納や脱税が正当化されているのです。
7月5日の国民投票結果を踏まえ、ギリシャのチプラス首相は、EUに新たな金融支援と債務返済負担の3割軽減、2年間の新たな金融支援などを要請しています。もちろん、この要請にEUは難色を示していますが、一方で世界的なベストセラー『21世紀の資本」の著者トマ・ピケティ氏などをはじめとする経済学者たちは、EUがギリシャに強いている緊縮財政政策について「1929~33年以来見たこともなかった大恐慌をもたらしただけだ」と厳しく批判し、ドイツ首相に公開書簡でギリシャの債務減免を要請しました。
しかしながら、納税意識の低さが財政難の大きな要因の一つとなっている点を考慮すると、自ら国に支払うべき税金を踏み倒すだけでなく、EU諸国からの血税で構成される貸付の返済を一部でも踏み倒すのは、略奪行為とさほど変わりはありません。財政難解消のためにも、財政構造を徹底的に改革して欲しいという点を、ギリシャ国民は理解すべきなのではないでしょうか。
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