6月29日、菅義偉官房長官は秋田市での講演時に「企業版ふるさと納税」創設を検討していることを明らかにしました。現段階では、ふるさと納税は個人納税者のみが対象ですが、菅官房長官は、政府の重要課題「地方創生」の施策のひとつとして、財務省や総務省、内閣府に企業版ふるさと納税に関する勉強会を設け、今年末に決める2016年度税制改正の大綱に盛り込む方向で、同年度からの実現を目指していると述べました。
個人のふるさと納税制度では、ご存じのとおり寄附した金額から2,000円を引いた分が所得税と住民税から控除され、自治体によっては特産品ももらえるとのことで人気となりました。今回は企業版を創設するにあたり、現行制度の課題点や懸念点について見てみたいと思います。
現行制度での課題点
まず、法人が行った寄附金は、現行制度上は損金扱いとなり、節税分は寄附金に税率を掛けた分だけとなるため、個人の制度と比較するといまひとつ節税の効果が感じられないと思います。
また、お礼の特産品は、法人の場合は贈与扱いの収益となり、特産品の相当額がまるまる課税所得に加算されます。例えば、ある法人Aのふるさと納税差し引き前の課税所得が1億円、税率は30%とします。AはB県C市に1,000万円のふるさと納税を行い、お礼に500万円相当の特産品を受け取りました。
Aの法人税額は、(1億円-1,000万円+500万円)x30%=2,850万円となります。仮にふるさと納税を行わなかった場合の法人税額は1億円x30%=3,000万円となり、150万円は節税になるものの、850万円(ふるさと納税1,000万円-節税額150万円)の支出が生じており、寄附金・特産品の事務処理も面倒な割にメリットが小さい印象を受けます。
そして、寄附を受ける地方自治体側も、寄附金の使途計画の開示、使途の報告方法、寄附した企業側がどのように評価していくかについてなどが、今後の制度設計への課題となるでしょう。
現行制度での懸念点
懸念点としては、法人が所在地以外への地方自治体に寄附を行った場合、本来納付されるべき地方自治体への税額が少なくなり、地方自治体間の不毛な競争を招くかもしれません。また、企業の寄附金額は個人に比べるとはるかに大きいため、地方自治体との癒着や、支配関係を懸念する声も聞かれます。あるいは、地方自治体に寄附するのだったら、その分を給料や配当に回してほしいという従業員や株主の不満をもたらすことになるかもしれません。
ふるさと納税の理念である、自分の生まれ故郷や関連地域への支援による納税意識の向上、地域格差の是正、地域産業の活性化支援などをより促進する適用ができれば、企業版ふるさと納税の創設には大きな可能性が秘められているともいえます。しかしながら、特産品合戦ともいわれる現行の制度について、本来の意義から逸脱しているとの指摘もあります。企業版ふるさと納税制度の創設にあたり、慎重な協議を期待したいと思います。
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