パイロット会計事務所
代表 山田寛英様
(公認会計士/税理士)
1982年 大田区生まれ。2006年に早稲田大学商学部を卒業。
2010年にアーク監査法人に入所し会計監査実務に従事。
その後、相続税申告に精通した税理士法人東京シティ税理士事務所にて個人向け相続対策・申告実務に従事し2015年に自身でパイロット会計事務所を設立。
大学卒業後、本気でやりたいことを探す日々が始まった
実は私、今でこそ公認会計士・税理士として士業の世界で働いていますが「芸大の大学院に進むぞ!」と決めて受験をしていた時期があります。実際にその道を本気で目指そうと思っていましたので、芸術の世界で活躍されている方々にリアルな話を聞きに行ったこともあります。そこで言われた衝撃的な一言が「食えるまで10年かかるぞ!」という言葉でした。当時の私は「10年間もひもじい思いをするなんて…嫌だ」と生理的に思ってしまったのですね。まさに人生を見つめ直すきっかけとなった出来事でした。
その後、結局は大学院には進まず就職活動を行うわけですが、一度は目指していた道が断たれた身としては(自身で断ったのですが)、本当にやりたいことが見つからず大変悩みました。因みに、悩んだ末に入社したのは一般企業(小売)でしたが、イメージ優先で入ってしまったため長くは続きませんでした。その後、塾の講師業もしましたし、レンタルCD・DVD店等でも働きました。当時の私は「興味が持てそうな業界があれば飛び込んでみる!」という日々を過ごしていたのです。
そうした日々の中で、徐々に分かってきたのは「肉体労働は全くもってダメ、自分が得意そうな分野はアカデミックな分野かもしれない」という自分自身の性質でした。そんな中、ご縁があって働かせて頂いた会計アウトソース会社があったのですが、その事務所の代表に助言頂いたのが「公認会計士を受験したら?」というアドバイスでした。上記の通り、既に肉体労働には不向きということが立証されていましたので「頭を使って稼ぐ」という方針にシフトすること自体に抵抗はありませんでした。その後、必死に勉強をして公認会計士試験に合格をし、アーク監査法人で勤め始めたのです。
資産税分野への転換
上記の通り、中堅監査法人にて公認会計士のキャリアをスタートさせた訳ですが、その監査法人では上場企業もIPO準備企業も広く対応させて頂きました。またM&Aの財務DDなども経験することが出来、入社して3年程立つ頃には公認会計士として新しい分野に挑戦したいという意欲が湧いてきたのです。その際に私が注目したのが資産税分野でした。
会計業界の方であればご存知かと思いますが、2015年1月に相続税法が改正されました。
また、相続税法が改正されるという話はその数年前から注目のトピックスになっていましたので、私としては何としてでも「相続の市場規模が広がる前に専門的な経験を積みたい」と考えるようになっていたのです。一方、相続分野の専門家はあくまでも税理士であり、税務の実務経験など皆無に等しい公認会計士を採用する事務所は稀でした。当時、転職活動を開始した際には複数の資産税専門の会計事務所にアプローチをしましたが、やはり結果は芳しいものではなかったのです。
そんな中、私にチャンスを与えてくれたのが前職の税理士法人東京シティ税理士事務所でした。税理士法人東京シティ税理士事務所は、入社年次の若い社員でも依頼者の相談対応やセミナー講師などの経験を積ませて下さり、私の性格やスタンスにも合っていたように思います。そういった恵まれた環境に縁あって入ることが出来たことにも非常に感謝しています。
遂に税制改正、そして開業
前職では一般的な相続税申告書の作成に加えて、相続対象者からの事前相談、税金シミュレーション、各種財産評価、そして資産家向けの相続セミナーなど、挑戦可能な仕事には意欲的に取り組みました。ただ、最初は税金について分からないことも多く、その状況自体にコンプレックスやストレスを感じる日々も続いていましたのが正直なところです。
その状況を打破するために相当な負荷をかけて学習をしましたが、気が付けば平日も休日もないような状況になっていたのでしょう。一時は肌が荒れすぎて触った箇所から血が出るような…そんな状態になっていました。
但し、努力をし続けると知識も知恵も蓄積され、それが自身の血や肉になり、徐々に仕事の質も上がり始めました。その頃からでしょうか、自分自身の力で事務所を立ち上げるという目標がそれ程高いハードルに感じなくなってきたように思います。
そして、2015年1月、以前から注目をされていた相続税の改正が実施されました。私もその時が自身の事務所を始める絶好の機会を捉えて、同年の6月に相続対策・相続税申告などの資産税サービスを主とするパイロット会計事務所を設立しました。
(開業日の山田氏)
常に事象を俯瞰して見る専門家でいたい
私がこの業界で働いて感じたのは「まだまだお客様のニーズを満たしきれていないのが資産税業界」だという事です。例えば、相続税の申告業務について豊富な知識と経験を持った専門家は世の中に多くいますが、お客様の悩みや課題について“税法だけを根拠に”対応している方も多いように感じています。この現象は士業の世界でよく見受けられますが、お客様は杓子定規な対応や回答を望んでいるのではありません。むしろ、個別の事情に即してオーダーメイド感覚で相談に乗ってほしいと考えている方のほうが多いはずです。
しかし、依頼者の抱える課題がイレギュラーであればあるほど、適切な解決方法を提示できない会計事務所は多いと聞きます。では、何故そのような状況が起きてしまうのでしょうか。
私の個人的な見解ではありますが、専門家というのは起きている事象を既存の判例やルールによって一定の型にはめ込んで判断しがちです。つまり、起きている事象を分解して、問題点を抽出し、その問題点に対しての解決方法を提示するというスタイルが主流になっているために“事象を俯瞰して全体を把握する”という視点においては欠けていまっていると思うのです。このようなことを言うと業界の先輩方々に生意気だと思われてしまうかも知れませんが、私も資産税業界に飛び込んだ公認会計士という変わったタイプの人間ですので、少しでも自身のバックグラウンドや特性を活用して存在価値を出して行けたらと思っています。
カイケイ・ファンをご覧の方に向けてのメッセージ
会計業界を目指している方、また既に勤務をされている方にお伝えしたいのは“実社会には、まだ開拓されていない領域がある”ということです。私自身、思い切って資産税業界の飛び込んでみましたが、法律や制度は完璧ではありません。むしろ、社会には幾つもの穴が存在します。
その穴を見つけ、開拓して、ニーズを満たしていくことで専門家は自分の居場所を確立するのではないでしょうか。資格を取ると良くも悪くも“資格に直結する実務”を行うようになりますが、一度立ち止まって自身が本当にやりたいこと、興味があることに挑戦してみるのも良いのではないかと思います。
(2015年10月28日掲載)