近年、IFRS(国際会計基準)の任意適用会社が増えてきています。今ではIFRSを適用した会社および今後適用を検討している会社は150社になるとも言われています。上場企業全体からみると、企業数としては多いとは言えないかもしれませんが、その数は確実に増えています。
また、数としては少数でもIFRS適用企業はグローバル企業が多く、適用企業の時価総額の合計は市場全体の時価総額の約2割にもおよぶと言われています。
IFRSの適用が増えているのは、企業側にどのような狙いがあるからなのでしょうか?
IFRS増加の理由
一時は2015年より強制適用と言われたIFRSですが、結果としてまだ強制適用とはなっていません。それでもIFRSを任意適用する企業が増えているのです。
日本基準からIFRSへ移行するには多大な時間とコストを要しますが、導入が増えている背景として主に以下の3点があげられます。
1. 海外投資家への情報開示の必要性
2. グループ企業の業績把握や経営管理に有益
3. 会計処理の相違に伴う増益効果
1つ目の海外投資家への情報開示の必要性ですが、日本企業の海外進出に伴い海外企業とのM&Aや資本提携、合弁会社の設立などが増加していることが挙げられます。海外進出が進むと、企業は海外投資家への対応を考えざるを得ず、そのため世界130カ国・地域で採用されているIFRSの導入を検討する企業が増えているのです。
2つ目にグループ企業全体の状況把握に有益であることがあげられます。日本企業の海外進出に伴い、海外の子会社が増えていくと、海外子会社の業績把握や経営管理が必要になります。仮に各子会社の決算書が異なる会計基準で作成されていると、グループ企業の状況把握が困難となります。そこで会計の共通ルールとしてIFRSが採用されるのです。
3つ目として、日本基準とIFRSの会計処理の相違による増益効果があげられます。日本基準とIFRSではいくつか会計処理が異なりますが、「のれん」の定期償却が不要であることなどの影響で、IFRSに移行すると会計上の利益が増えることが多いのです。
当然、企業側にとっては会計基準を変えたことで業績が上がるわけではありません。しかし、移行により会計上の利益が増える場合が多いことが、企業のIFRS導入の動機の1つとなっているのです。
日本基準とIFRSの大きな違い
日本基準とIFRSでは会計処理がいくつか異なります。主な事象としては、以下があげられます。
上記で一番大きな影響を与えているのが「のれん」の処理でしょう。日本基準では毎期償却が必要です。一方、IFRSであれば毎期の償却は不要です。そのため、これまで「のれん」の償却費が多い会社であれば償却が不要な分、利益が増えるのです。
研究開発費も日本基準では費用処理が原則ですが、IFRSでは要件を満たせば資産計上できます。そのため研究開発費が多額の会社がIFRSを適用すると、これまでは費用処理していたものが資産計上となり、やはり利益が増えるのです。
日本企業の海外進出に伴い導入が増えているIFRS。近年では株式会社すかいらーくのように、上場時からIFRSを適用する会社も現れました。
IFRSへの移行には多大な時間とコストがかかりますので、導入の際には入念に準備しておきましょう!
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(文/江黒公認会計士事務所 公認会計士 江黒崇史、記事提供/株式会社エスタイル)