2017年度より、消費税率が10%に引き上げられます。これと同時に食料品などの生活必需品に、本来の消費税率より低い税率を適用する軽減税率制度の導入も検討されています。
確かに、軽減税率の対象品目が多ければ多いほど家計が助かるのは言うまでもありませんが、政府の税収への影響も大きく、国税庁の試算によれば1%で5,000億円のインパクトがあるといわれています。
仮に食料品の消費税率を8%に据え置くとなると、年間1兆円超の税収が減り、政府側も軽減税率の適用について慎重にならざるを得ません。
この他にも、軽減税率適用の弊害としてどのようなことがあるのでしょうか。
消費税の「逆進性」は高所得者に有利?
そもそも、消費税は所得の大小にかかわらず同一の税率を課されることから、軽減税率の導入が議論されたのは消費税の逆進性に対応していくためでした。
総務省が発表した2014(平成26)年度の家計調査によれば、年収を5段階に分けた階層別のエンゲル係数は、一番低い第I階級(世帯年収436万円未満)が25.1%、一番高い第V階級(世帯年収906万円以上)が20.2%でした。
高所得者の方がより食料に費やせる金額が多いことから、軽減税率はある一定の効果はあるものの、より大きな恩恵を受けるのは高所得者層であり、制度自体に疑問の声があがっています。
何を「食品」とみなすか
欧米などの海外では食料品の税率がそれぞれ決まっており、商品ごとの税率・税額が明示された納品書や請求書を出すことが義務化され、システム化されています。
しかし、日本ではこれまでに複数の消費税率を使った実例がないため、何を「食品」とみなすかという点で問題が発生します。
例えば、今日の外食産業では、いわゆる「飲食サービス(役務の提供)」と「食品(譲渡)」の区分が一層困難になる場合があり、一概に判断できない場合があり得るということです。
その他にも、消費税率を軽減するという手続き自体が煩雑になるため、それを運用するためのコストが高くなることが予想されています。小規模事業者にとっても、このような複数の税率を厳密に会計処理することは、相当の負担になるとみられています。
学会・産業界の有志からなる日本租税研究協会が、会員を対象に今年7月に実施した「税制についての租研会員の意見調査結果」によれば、21.7%が「消費税率10%への引上げ」を認めており、軽減税率制度については57.1%が「導入すべきではない」と回答しています。「どちらかというと導入しないほうがよい」の22.8%を含めると、約8割の会員が導入に反対あるいは消極的であるとの結果が出ています。
理由としては、上記で述べた「税制の簡素性に反する」「対象品目の選定が極めて困難」「事業者にとって事務負担が過重となる」となっており、複数の消費税率を用いることに困難な見方をする専門家が多いのが実情のようです。
いずれにせよ、11月中旬までに対象品目や財源などといった軽減税率制度の詳細が固まり、年末の税制改正大綱に盛り込むということなので、今後の動向に注目したいところです。
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