米国大手6位の会計事務所「グラント・ソントン」社は、9月30日のプレスリリースで、業界初の無制限有給休暇付与を発表しました。
対象は、米国在住の社員6,700人で、今年11月までに有給休暇を無制限に付与するとのことです。優秀な人材の引き留めや、競合からの引き抜きが狙いとみられます。
また、この制度が業界のロールモデルとなり、同社の魅力をより高めることを確信している、とコメントしています。
「有給休暇が無制限に取れる」ことは一見、魅力的な制度ですが、言い換えれば「会社は社員の有給休暇取得を管理しない」とも取れます。これには、どういった背景があるのでしょうか。
日本と変わらない米国の有給休暇取得状況
米国は、労働者の有給休暇を規定する法律がない唯一の先進国です。
日本では有給休暇そのものが就(転)職の決め手になることはあまりありませんが、米国では魅力的な企業かどうかを判断する項目の一つとなっています。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構が発表した「データブック国際労働比較2015」によれば、2013年の日本の平均年間総実労働時間が1,735時間に対し、米国は1,788時間と、若干ではあるものの米国が上回っていました。
また、米国のニュース雑誌「タイム」によれば、米国の有給休暇の消化率は、日本に次ぐワースト2位、そしてビジネス誌「フォーチュン」は、米国では一人あたり毎年5日間の未消化の有給休暇があり、企業は金額換算で2,240億ドル(約27兆6,100億円 ※11月17 日現在)の有給休暇引当金を翌年に持ち越しているとのことです。
原因として、労働者が長い休暇を取れば取るほど、休暇から戻った際、山積みの業務の片づけをしなければならないことや、休暇取得により会社から取り残されてしまうのではないかという不安を抱いている点などがあり、成果主義で、日本より解雇のハードルが低い米国の特徴が表れていると言えます。
無制限有給休暇付与は日本の労働文化に合うか?
日本では、2014年末に過労死等防止対策推進法が施行され、2020年までに有給休暇の7割の取得を義務付けたい旨の政府報告書が提出されました。これにより、今後は少なくとも形式的には、より多く有給休暇を消化しなければならなくなるでしょう。
日本の監査法人では、業務にアサインされていなければ、自由に休暇を取得でき、また法定有給休暇以外にも「試験休暇」や「リフレッシュ休暇」といった法人独自の休暇も用意し、職員の休暇取得に積極的なところが多いようです。
しかし、グラント・ソントン社のような「無制限の有給休暇」となると、業界以前にまず労働法規上のインフラ面からの見直しが必要になります。また、そもそも2020年に目標とする有休消化7割の分母にあたる日数が無制限になれば、逆に法定有給休暇日数より少ない日数しか取得しない労働者が増加する可能性も大きいです。現状では、この制度を採り入れるのは難しそうです。
上述の米国グラント・ソントン社は、他の大手監査法人に先駆けて、米国のホリデーシーズンにあたる12月21日から翌年の1月1日まで、法人単位で休業すると発表しています。
米国は12月決算の法人が多く、休業明けの1月より個人・法人の確定申告の繁忙期を迎えるため、完全に休業するには、クライアントの理解と周到な事前準備が必要なことが想定されます。
そうはいっても、より良いワーク・ライフ・バランスのために、今後の業界のロールモデルとなるだけでなく、産業界全体、そして諸外国にも良い影響を及ぼしてほしいものです。
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