東芝は2月3日、「予算策定プロセスおよびカンパニー業績評価制度の見直しについて」を発表しました。これは、前年の2015年12月21日付けに公表した「新生東芝アクションプラン」の一環で、今後は、損益計算書上の利益追求のみならず、現金創出に重きを置いた経営管理を進める「キャッシュフロー経営」により焦点を置いたプロセスに移行し、財務体質を強化し、収益性を改善していくとのことです。
さて、たびたび話題となる「キャッシュフロー経営」ですが、今回は日本で先駆けてキャッシュフローに取り組んだキヤノンの成功事例についてご紹介します。
カメラメーカーから多角化企業へ
キヤノンは創業の1937年から約30年間は完全にカメラのメーカーでした。高度経済成長期に事業の多角化に着手し、電卓や複写機事業にも裾野を広げて行きました。1977年に同社は事業部制を導入し、1980年代の10年間は、高い成長率を誇ったものの、事業部毎の収益力の差も出るようになり、赤字事業部についてはなかなか赤字から抜け出せない状況が続きました。
そこで、米国の子会社で23年間経理・人事・総務等々の管理部門の専務を担当してきた現会長兼CEOの御手洗冨士夫氏は、1995年の社長就任時に、米国で取り組んだキャッシュフロー経営に着手しました。当時、キヤノンは株主資本比率が35.1%、有利子負債依存度33.6%、売上2兆900億円に対して借入金8,400億円という高借金の財務体質でした。
コスト削減によるフリーキャッシュフローの改善
御手洗氏は、これまでの損益計算書による利益ではなく、キャッシュの最大化を意思決定の基準とする経営方針に変えました。現金創出の源は「内部留保」「減価償却」、そして「経営努力」の3つとし、きちんと目標管理をしながら、目に見える形で利益を管理していきました。
御手洗氏は7つの不採算部門を閉鎖し、これまでのライン生産方式から、数人で効率よく製品を組み立てる「セル生産方式」を全工場に導入しました。仕掛品と在庫をそれまで23日分ほど保有していたのが、4分の1以下の5日ほどに減少しました。
また、カンバン方式(必要なときだけ必要な部品を取り入れる生産方式)も導入し、それまでは約3日分位あった部品在庫が約6時間分に短縮されました。このような製造現場のムダを排除した結果、工場の運転資金が3分の1以下になり、人件費は年間220億円の削減、生産方式の改革でラインでの仕掛品が削減し、7年間の累計で3,000億円以上のキャッシュを創出し、実質無借金企業への変革を遂げたのです。
東芝は今後、各カンパニーごとに有利子負債の限度額を設定し、これを超えた場合、改善計画を策定するなど、管理体制を強化していくだけでなく、各事業の投資額決定の際は、収益性以外にも、市場シェアなどの指標に基づき成長性を評価していく予定です。
同社はこれまでにもキャッシュフローにも配慮した経営を行ってきましたが、今回の不適切会計で期間損益に過度に偏重する部分が明るみになってしまいました。今回の「キャッシュフロー経営」移行により、同社のタグラインである「Leading Innovation」を取り戻す日が早く来るよう、冷静に見守りたいと思います。
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