新聞各社の報道によれば、9月16日、東京都港区にあるインターネット関連製品、ソフトウェアの開発・販売を行うアメリカの大手メーカーの子会社(以後:A社)が、東京国税局の税務調査を受け、音楽・映像配信サービスのソフトウェア使用料を巡って、源泉所得税の徴収漏れを指摘されていたことが分かりました。
追徴課税額は約120億円。同社は指摘を受け入れ、既に納税したとのことです。
ソフトウェア使用料は、アイルランドにあるA社とは別の同メーカー子会社が著作権を保有しており、本来は日本法人が20.42%の源泉徴収税を納付する必要があったのですが、国税局の調査によれば、A社から使用料の支払いも、源泉徴収もされていなかったとのことです。
源泉徴収の要否はどこで見分けるのか
所得税法を見てみると、海外からソフトウェアを購入する際、源泉徴収が必要なのは、「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価」に該当した時とされています(所得税法第161条7号ロ)。
しかし、一体それが何なのかは条文からでは判断がつきません。そこで実務では、「著作権の使用料又はその譲渡による対価」は、日本の「著作権法」の考え方に従って運用されています。
著作権法上で支払った対価が「著作権の使用料」とみなされるのは、複製権(21条)、上演権及び演奏権(22条)、公衆送信権等(23条)、口述権(24条)、展示権(25条)、頒布権(26条)、譲渡権(26条の2)、貸与権(26条の3)、翻訳権、翻案権等(27条)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)などです。これらに対し、源泉徴収が必要であると理解していいでしょう。
一方で源泉徴収が不要な場合とは、ソフトウェアをメディアで購入してインストールする場合です。本来、ソフトウェアのインストールという行為は、原則として権利者の許諾が必要です。プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等(47条の3)において、「プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる」とあり、インストールという複製行為を権利者の許諾なしに行うことが可能となっています。
このため、著作権法上、支払った対価が著作権の使用料には該当しないことから、源泉徴収は不要になります。
国税局は何をソフトウェア使用料と認定したのか
それでは、A社は本当にアイルランド子会社に対し、何も支払っていなかったのでしょうか? そして、国税局はどのようにしてソフトウェア使用料を算定したのでしょうか。
国税局の調査によれば、A社は、スマートフォンなどを販売する同大手メーカーの日本法人に、使用料とは別の名目で2014年までの約2年間で約600億円に上る多額の支払いをしていました。同日本法人はシンガポールの関連会社を経由してアイルランド子会社からスマートフォンなどを買い取っており、この一連の支払いの流れをA社のアイルランド子会社に対するソフトウェア使用料支払いに該当と認定したようです。
8月30日に、欧州連合(EU)の欧州委員会が、アメリカの同メーカーがアイルランドで受けていた優遇税制は、公正な競争を妨げる違法な国家補助にあたると認定。そのメーカーに対して最大130億ユーロ(約1兆4800億円)の追徴課税を命じるよう同国政府に求めたニュースが世界を騒がせました。恐らく、この法人は今回のアイルランド子会社なのでしょうが、このように世界的に著名な企業による、脱税行為とも見られかねない行為は、企業イメージに影響しかねません。企業にとって節税は命題ですが、あまりに行き過ぎた行為は考え物です。
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