税理士や会計士の数は、地域により偏りがあります。例えば税理士登録者は全国で7万人以上ですが、そのうち約2万人は東京、8千人は大阪、愛知と神奈川がそれぞれ4、5千人。一方、鳥取、高知、島根などは200人前後です。これは人口や経済規模を考えると頷ける数字ともいえます。
しかし、これは必ずしも地方に会計人の需要がないことを示しているわけではありません。統計は至極ざっくりとしたものですが、細かく見ていけば、中小企業が集まる地域や資産家の多い地域など、会計業務への需要が高く、かつ専門家の少ない地域もあるはずです。
地方における会計人の業務開拓を考える際に必要な視点は2つあります。それは地域密着のローカルなアプローチと、IT技術を利用した全国対応による需要の取り込みです。
まず、地方で開業する会計人は、その地域の経済・社会がどのように回っているのかを知り、「ご意見番」的に税務会計に限らない総合的な助言を行える人が成功していると感じます。
地域の主要産業の業態、その業界を取り巻く状況に関する知識は、他の地方の会計人が太刀打ちできないものがあります。また、地方では特定の企業や個人、金融機関、自治体の施策等が事業活動を左右することが多く、土地の事情に精通して“勘所”を抑えていることも地域に密着するからこそ持てる強みでしょう。
慣習もそれぞれ異なります。例えば血縁の強いコミュニティでは相続の際に都市とは異なる問題が起こりがちです。遺言書の重要性の啓発や、法律関係に限らず様々な想いを書き残す「エンディングノート」を推進することで、業務を拡大している会計人もいるようです。
実は、都市で開業する事務所のなかにも、「全国対応」を標榜し地方をサポートしている所があります。ネットを駆使しての集客、統一された会計システム、e-Taxの利用で記帳から申告といった顧問業務を北海道から沖縄まで行う事務所が増えてきました。これは一昔前では考えられない状況です。
全国対応を売りにしているある公認会計士・税理士の先生は、ホームページにちょっとした工夫をしているそうです。サイト内のコラムで、地域の経済状況や自治体の補助金等の施策に関する情報を積極的にアップし、地方対応への強みをアピールしているのです。また、よりソフトなイメージ戦略として、ブログで自身の生まれ故郷の思い出話、地方に訪れた際のエピソードなどを取り上げたり、職員にも自分の地元の軽い話題をブログに書いてもらったりしています。それにより、取り上げられた地域から依頼や問い合わせが入ることがあるそうです。
サイトによる集客だけではなく、潜在的なニーズがありそうな地域に「○○地方強化月間」といった形で営業をかけることもあるとのこと。その先生は「正直、空振りも多い」と笑っていましたが、顧客を1件獲得すると、クチコミが発生し、同地域で複数の依頼が舞い込むこともあるそうです。IT化には、そういったトライアル営業の投資コストを下げる側面があることも見逃せません。
「これからは地方の時代だ」「地方の疲弊が止まらない」―。喧伝される楽観論、悲観論にはそれぞれ理があります。会計人はそのような情報の単なる受け手ではなく、その中からビジネスチャンスを探し、事業に繋げることを考えなければならない存在です。また、いささか理想論的にすぎるかもしれませんが、地方での業務の経験を、失敗の事例を含めて蓄積することが、企業活動を支える会計人としての本物の見識を深めることにもつながるのではないでしょうか。