2013年6月4日掲載
金融機関に貸付条件の変更への努力義務を課す金融円滑化法が3月までで終了し、今後中小企業の倒産が急激に増加するのではないかと懸念が示されています。金融庁の調べでは、2009年の同法施行から中小企業に対し行われた条件変更は約350万件。こうした企業への貸し渋り、貸し剥がしが進めば、再建が困難になる事例が続出する恐れもあります。
しかし、現在のところ、同法の終了を要因とする目立った倒産増加は見られません。金融庁は「金融機関が貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めるべきということは、円滑化法の期限到来後においても何ら変わりません」と強調し、セーフティネット貸付や、税理士、弁護士、金融機関による経営改善計画策定への補助金など、激変緩和措置ともいえる政策を打ち出していることも影響していると思われます。
さて、現在「アベノミクス」の柱である金融緩和が話題になっていますが、金融円滑化法も、お金を借りやすくするという意味では「金融」を「緩和」する措置でした。しかし、大きく異なるのは、現在行われる金融緩和は、日銀が市中に中立的な貨幣、「真水」を注入するということにあります。
一定の業態と企業規模、雇用を持ち、だからこそ新規事業への投資やリストラをするのが難しい既存の中小企業から、既存企業にしろ新規企業にしろ、身軽な財務体質を持つ企業がお金を借り、新たな事業に投資しやすくする政策であると言えるでしょう。
金融緩和は、名目金利から将来のインフレ期待を引いた「実質金利」を下げることでお金を借りやすくする政策です。インフレ、つまりお金の価値が下がるのであれば、将来の債務の負担も軽くなり、また額面上の売上や利益が上がると予想できますので、今お金を借りておくのが合理的ということになります。
しかし、資金需要が生まれてこなければ余ったカネは行き場所を失います。デフレからの脱却は、生産性が高く、需要を生み出す事業が創出され、そしてその事業に金融機関が適切な与信を行い、資金が提供されるという流れがなければ実現しません。
職業柄、創業者の会社設立に関わることがありますが、最近の新規法人に顕著な現象として見られるのが、事務所を持たず、受付機能や経理などを徹底して外注化するなど、固定費を抑える動きです。いわば既存企業の再生時に金融機関等から求められる財務体質をはじめから備えた企業です。ITの発展もあり、これは自然なこととも言えます。
一方で、明らかに雇用契約的な条件を持つ「業務委託契約」で人材を調達し、事業を回していこうとする経営者も多く、コンプライアンスの観点から改善をアドバイスせざるを得ないこともあります。低コスト体質の企業がこれからの経済の担い手になるか、「ブラック企業」がのさばるだけに終わるのかも、新たな需要を生み出せるかにかかっているのです。
私の周りの同業者には、金融緩和について総論で反対する人はあまりいないようです。しかし、中小企業の経営の現場をつぶさに見る立場として、株高等による高揚感や、お祭り騒ぎに同調する人はほとんどいないと感じます。現在、名目の長期金利はじわじわと上昇の兆しを見せており、企業貸付にも影響してくることが予想されます。この状況下でインフレ期待が高まらなければ、金利負担だけが上がることになり、それこそ倒産の激増につながるでしょう。
マクロ経済の予想は立ちにくいものですし、私もエコノミストほどに自信たっぷりなことは言えないので、現場に基づく経験でしかお話できません。金融円滑化法終了後の会計人の役割としては、政策や金融機関の動きを注視しながら、企業家精神と資金調達を「円滑」につなげるファイナンスの視点を一つ一つ丁寧に提供し続けることだと強く感じています。