2013年6月14日掲載
さる5月23日、昨年の暮れにも当コラム(http://www.kaikeinet.com/topics/20121212-775.html)で取り上げた「馬券脱税事件」の判決が出た。新聞テレビをにぎわせたので注目していた方も多いだろう。
男性は2007年からの3年間に総額28億7000万円を超える馬券を購入、30億1000万円の払戻金を得ていたが、男性はこうした配当を申告していなかった。この裁判が紛糾したのは、競馬での利益が1億4000万円だったにも関わらず、国税局が当たり馬券の分を差し引いた約29億円分を「一時所得」とみなし、検察は脱税分が5億7000万円に当たるとして起訴したためだ。つまり手元にある1億4000万円の4倍を超える金額を課税された。これに対し、弁護側は、外れ馬券を必要経費として算出することを主張。結局、判決では、男性被告に対し、懲役2ヶ月・執行猶予2年(求刑懲役1年)の有罪判決を下されたが、課税額については被告の主張にほぼ沿う形で大幅に減額。事実上の「勝訴」となった。
以前も触れたように、この裁判は、(1)年収800万円のサラリーマンが億単位のお金を競馬で動かしていたスケールのギャップ(2)脱税を問われた会社員が外れ馬券の購入費を「必要経費」として課税不服を申し立てている主張のユニークさ――の2点が話題性として際立っていた。特に(2)の外れ馬券の扱いについては、レース中のせめぎ合いを見守るかのように固唾をのんだ競馬ファンも多かった。
ネット上では「俺も高額配当をゲットしたらヤバいなあ」と、“杞憂”に思える声もあったが、馬券を買ったことのないとみられる人からは「競馬は当たったら課税されるんだ?」という素直な驚きをした人も少なくなかった。一見、宝くじと同じく非課税の印象があるが、当たり馬券の払戻金は「一時所得」とみなされる。筆者の身の周りの競馬ファンでも多少の当たりがあった人が申告をしているのは見たことがないが、もともと会社員は給与以外の所得が年間20万を超えると確定申告の対象であり、競馬では年間で90万円を超える「黒字」があれば申告しなければならない。
都合のいい夢かもしれないが、実際に万馬券で数千万単位の万馬券が当たってしまった場合、あなたはどうするか?今回のニュースを受け、「俺も馬券を買い続けて一発当てれば、外した間の分も必要経費に認めてくれるのかな」と、淡くよこしまな気持ちを抱いた人もいるらしいのだが、そうは問屋が卸さない。
男性は、独自開発した競馬予想ソフトを駆使し、データを基に大量の馬券を購入するあたりは、ほとんど株のデイトレーダーを彷彿とさせる。実際、弁護側は今回、裁判所に対し、FXや先物取引と同じように考えるように主張していた。かなり裕福な競馬ファンであっても、そこまでテクニカルな買い方をしている人は皆無だろう。男性は職業的な買い方をしていたと認定されるほどの極めて例外的なケースにあたるのだ。
とはいえ、馬券を巡っては元々1割が国庫に入る仕組みになっており、「二重取り」という批判もつきまとう。執筆時点(5月末日)で検察側が控訴するかは明らかになっていないが、下級審とはいえ馬券と税の関係について一石を投じる判決は出たわけで、今後の税制改正へと議論が盛り上がる可能性もあるだろう。
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