2013年7月19日掲載
スペインで今、リオネル・メッシ選手の脱税問題が大きな話題になっています。メッシ選手といえば、名門クラブのバルセロナ、そして故郷のアルゼンチン代表としても大活躍するサッカー界新時代のスーパースター。クリーンなイメージがあるだけに、衝撃が走りました。
私はこの件に関しては報道以外の情報源を持っていませんし、スペインの税制の知識もないのですが、会計人、またサッカーファンとして今後の展開は非常に気になっています。
報道内容を調べる限り、容疑は、メッシ選手の代理人を務める父親が、同選手の肖像権をタックス・ヘイブン(租税回避地)のベリーズ、ウルグアイに設立された企業に譲渡。広告収入をタックス・ヘイブン各国の法人収入とすることで、スペインの所得税の課税を免れていた、というものです。
「脱税額」は400万ユーロ(約5億2千万円)。メッシ選手はFacebook上で脱税を否定する声明を発表していますが、税務当局は検察へ告発、すでに同選手に裁判所への出頭命令が出ているとの報道もあります。
スポーツ選手が肖像権の使用等に関するライセンス契約を別会社と結ぶことはよく行われていることであり、それ自体に問題はありません。今回の事案で問題となるのは、この企業に実態があるかということでしょう。法人収入が直接的にメッシ選手の懐に入っているとなれば、悪質性が高いといえます。
法人に実態があったとしても、ライセンス契約の内容が問題になりそうです。世界的スーパースターの肖像権を利用すれば、世界中の企業から莫大な収入が得られるものと思われます。そのネームバリューに比べ、メッシ選手が本国で得る対価が低過ぎる場合も状況は不利に働くでしょう。
税法上違法性が構成できない場合、利益がタックス・ヘイブン内の会社に留保される状態になり、発生した利益には低率の課税あるいは無税となります。本国では、利益が何らかの形で移転するまで課税できません。タックス・ヘイブンの会社で財産管理を行い、再投資を行えば、税負担なく資産運用ができることになります。
タックス・ヘイブンの利益を本国で補足する方法は世界的な課題です。アマゾンやグーグル、スターバックスなどの多国籍企業が行う複雑な節税策に、各国の対応は後手に回っています。タックス・ヘイブンに設立した会社の所得を本国で益金に算入する税制などが各国で整備されていますが、適用要件の線引きが非常に難しく、まさにイタチごっこの状態。財政危機が叫ばれるスペインで起こった有名人の脱税問題は、現代の困難な状況を象徴しているともいえるのではないでしょうか。