早いもので、あれからもう1年が経とうとしている。
「その場から逃げたい気分でした。しかし私の理性は、『事実を追究したほうがいい』と言ったんです」―。2011年11月25日、日本外国特派員協会で行った記者会見に臨んだのは、オリンパスの社長職を解任された英国人のマイケル・ウッドフォード氏。月刊誌「FACTA」が報道した自社の巨額の損失隠し疑惑について、当時の経営陣を追及した場面や心境などを生々しく振り返った(出典;2011年11月28日、ニコニコニュース)。
ウッドフォード氏の解任は2011年10月、社長就任後わずか半年のことだった。当初は「他の経営陣の間で、経営方針の違いが大きいため」と発表されていたが、実態は損失隠し疑惑を追及したため、社長の椅子を追われていた。年間数億円規模の売上しかない国内企業の買収に200億円もの大金をつぎ込んだり、英国の医療機器メーカー買収に2000億円も投じ、投資助言会社に約700億円という法外な手数料を支払ったりといった不可解な企業買収の事実が浮上。その後、東京地検特捜部が捜査に乗り出し、損失隠しがあったとして当時の経営陣が金融商品取引法違反で逮捕・起訴される刑事事件に発展した。当然、同社の担当会計士のチェック漏れに批判も集まった。
オリンパス事件の前後にも企業の不正会計が相次いで発覚した。大企業の海外子会社での発覚も報道されるが、中小企業の経営再建事業を手掛けるコンサルタントは「経営が苦しい企業で会計を粉飾するところは少なくない」と打ち明ける。金融庁の企業会計審議会は、2012年10月18日の会合で、「不正に対応した監査の基準の考え方」の素案を審議。その中で<職業的懐疑心の強化>が項目の一つに取り上げられた。「監査人は、経営者等の誠実性に関する監査人の過去の経験にかかわらず、不正による重要な虚偽の表示が行われる可能性に常に留意し、監査の全過程を通じて、職業的懐疑心を発揮しなければならない」「監査人は、不正リスクを把握した場合には、職業的懐疑心を発揮して、当該リスクに対応する監査手続を実施しなければならない」などの”戒め”が盛り込まれている。
企業側は不正経理のチェックの体制を拡充しているが、会計士も、コンプライアンスや監査などの内部統制を行う「公認不正検査士」の資格を、弁護士や警察官らと並んで取得するなどの努力をしている。オリンパス事件で大きく注目された不正会計の問題。会計士には不正を許さないという高い倫理観が求められていることを示すと同時に、会計士を目指す人たちにも将来の仕事を真剣に考える契機となって欲しい。