公認会計士の働き方で新しい選択肢が注目されている。これまでは監査法人で働くのが主流だったが、ここ数年、企業に所属して業務を行う会計士が増えている。彼らは「組織内会計士」あるいは「企業内会計士」と呼ばれている。日本公認会計士協会は「組織内会計ウェブサイト」を特設するなどPRに力を入れており、今年に入ってからは実際に企業で活躍している会計士の事例を紹介し始めた。
企業で働く会計士へのインタビュー記事は、3月から随時増やしており、これまでに7人を紹介(11月5日時点)。その多くは監査法人で会計士の業務経験を積んでから証券会社やシンクタンク等に転職しているが、7人のうちの1人である、鈴木吾朗さんは監査法人でのキャリアはない。大学卒業後から勤務している三菱UFJ信託銀行株式会社で不動産投資法人の業務に携わりながら、資格を取得。監査法人に行かなかった理由については「会計士試験や実務補習を通じて得た知識を、現在の仕事に活かしたいと思ったから」だという。一方、監査法人からの転職組では、株式会社ダスキンの経理部で連結管理室室長として活躍する今井幸彦さんが「執行側・作成側で当事者として関わりたかった」と企業への転職理由を語っている。経理体制の整備や上場準備などの業務は、企業内部にいるからこそ手応えを感じる部分も大きいようだ。
企業内会計士が注目されだしたのは、会計士の就職事情の変化が影響している。2006年度以降、会計士試験の合格者が従前の千数百人規模から、一時は約4,000人にまで急増。この頃は企業が、上場に積極的だったことや、会社法改正による内部統制構築業務に追われていたことなどから、監査法人の多忙化で会計士の”人手”が求められていた。ところがリーマンショックの影響や、内部統制構築業務が一段落したことで監査法人の業務が縮小傾向に。大手法人でも人員削減に踏み切るなど、今度は、会計士試験の合格者にとって監査法人への就職が狭き門になっていた。そこで、会計士の新しい「受け皿」として企業が期待されているのだ。
ただ、留意したいのは、「会計士の職場=監査法人」という社会的イメージがまだ根強い現実だ。日本公認会計士協会が2011年に発表した「組織(企業)内会計士に関するアンケート最終報告書」によると、「企業内で会計専門家の必要を感じる」企業は23%にとどまり、企業の約7割が「年俸で折り合わない可能性」を懸念するなど、企業側は慎重に見極めている。しかし報告書では、会計の国際化や高度化が進む中で、企業側による600人近い会計専門家の採用を見積もっており、今後は企業内会計士の需要が増える可能性もうかがえる。前述の今井さんはインタビューで「攻める会計人と守る会計人、作る会計人と監査する会計人という形でそれぞれのフィールドで公認会計士が日本経済発展のために貢献していればいい」と話している。