安倍政権が誕生し、年が明けてからというもの税制を巡るニュースが目立って増えてきたように思う。たとえば贈与非課税への動きだ。日本人が持つ1,500兆円の金融資産の6割をシニア世代が持つとされるが、少しでも若い世代への金回りを促そうという試みが進んでいる。緊急経済対策に、孫への教育資金に充てるのが目的の贈与税は、1人当たり1,500万円を上限に非課税とする方針が盛り込まれたし、現在は子供への贈与を対象としていた財産の贈与非課税について、孫も対象にする方向で検討が進められている。
しかし、世界最悪の財政状態が続く我が国では、減税と増税はコインの裏表の話だ。一見喜ばしい減税の動きは、急激な増税による景気の腰折れを和らげるためともいえる。贈与税の非課税が検討される一方で、相続税の課税対象は広がる方向だ。民主党政権下でも行われていた住宅ローン減税についても5年程度の延長の動きが報じられているが、これも2014年以降、2段階に渡って引き上げられる消費増税によって住宅購入の意欲をなるべく削がないための配慮でもある。この1月の給与分からは復興増税が適用され、所得税の最高税率は40%から45%に、相続税は最高税率が50%から55%に引き上げられる方向だ。
1980年代には過去最高で70%(!)もの所得税率が課されていた時代に比べれば、高くないようにも見えるが、この状況が続けばお金持ちが国外に資産を移す「資産フライト」の動きが加速しそうだ。日銀の資金循環統計(2012年第3四半期速報)によると、家計の外貨資産は2012年9月末時点で36兆4,000万円。家計の金融資産総額に占める比率は、2008年のリーマンショック直後こそ落ち込んだものの、基本的には上昇傾向にある。80年代と違うのは経済のグローバル化が進んだことだ。経営者であれば自分の会社の機能ごとシンガポールあたりに飛んでいきかねない。
もちろん、国も指をくわえて見ているわけではない。実は今年の12月31日時点から、外貨預金や外国株式、在外不動産など国外に持つ資産が5,000万円を超える場合には、その種類や価額などを税務署に申告する「国外財産調書制度」がスタートする。故意に申告しないと懲役などの刑事罰も課されるもので、制度開始前に富裕層を中心に「資産フライト」が加速する可能性もある。
こうした中、税理士が顧客の海外への資産分散をサポートする動きも一部で報じられている。これまでの資産管理の手伝いは国内中心だったが、増税の時代となれば顧客の求めにより、グローバルな資産移転にも対応が迫られることが増えそうだ。