カイケイ・ファン

【特集企画】会計業界を創った男たち(辻・本郷 税理士法人、公認会計士・税理士 理事長 本郷孔洋氏)

東京都新宿区
辻・本郷 税理士法人
理事長 公認会計士・税理士 本郷孔洋氏
1945年岩手県生まれ。早稲田大学第一政経学部卒業、同大学大学院商学研究科修士課程修了。その後1972年に、昭和監査法人(現・新日本監査法人)に入所。1977年に独立。2002年、辻・本郷 税理士法人の理事長就任。東京大学大学院講師、環境省中央環境審議会専門委員、神奈川大学中小企業経営経理研究所客員教授なども務める。

私の場合、だいたい10年ごとに節目がやってきたね。
それが成長のロケットになっている。

これまでを振り返られて、どのようなターニングポイントがありましたか?

私の場合、だいたい10年ごとに節目がやってきたね。それが成長のロケットになっている。

最初は独立して10年後。そこそこの規模になって当時としては悪くないと思ったけど、このままいってもたかが知れてるなという危機感もあって。その矢先に出会ったのが山田淳一郎さん。天才だと思ったね。彼に資産税について教えてもらったことが、大きな変化をもたらした。あと、同じときに参加してみたマーケティングセミナーも刺激的だった。ただ一生懸命努力したからいいわけではなくて、正しい方向を向いていなければ意味がないという話だった。
その後もいくつかのターニングポイントがきたけど、このときが大きかったかな。

結局、ターニングポイントって自分自身が問題意識をもっていないとダメ。どんな勉強しようが、誰と会おうが、それだけで転機には至らない。問題意識があるからこそ、出会いや知識が身になるんだと思う。
ジャスダックで見ると、何十年たっても売り上げ額が上場したときとあまり変わらない企業なんて山ほどある。1つのロケットを打ち上げただけで終わってしまう。そうじゃなくても、企業も人も、複数段のロケットを持つべきなんだろうね。1段だけでなく、2段、3段とロケットを飛ばしていかないと。それこそターニングポイントなんだと思う。

ちなみに今、今後の在り方で行き詰まりを感じているんだよ(笑)。これをどう切り開いていくか。新たなターニングポイントになるだろうね。

めちゃくちゃ大きくなってるか、つぶれてるかどっちか。

3年後、貴法人はどういう形になってると思いますか?

変化できなかったら、無理かな。
うちも大きくなって、プラスの面もあるけど、負の資産もあるからね。やっぱり古くなってるところは古くなってる。
それをどのように変えていくか。3年もしたら、結果はでているでしょう。今の規模でたいしたことなければ、まぁ俺はたいしたことないと、こういうことだろうな。

大手と地元密着の二極化が進んでいくだろうね。

事業拡大のひとつに、地方会計事務所をグループに吸収する方法がありますが、
そのあたりはどう思われますか?

大手と地元密着の二極化が進んでいくだろうね。

グッドクエスチョンだね。今悩んでるんだよ。
ここ何年かで地方展開をはじめているけど、ここにも大きな壁を感じていて、課題・転機があると思う。まだ答えは出ていなくて、いろいろなチャレンジはしていくつもりだけど。小売の出店戦略と同じで、大手だからといってどの土地でも有利なわけじゃない。どれほどブランド力があっても、個々の局地戦に勝てるかどうかはやり方次第。小さくても優秀な会計事務所はいっぱいあるからね。そこで勝っていくというのは、けっこう難しい。

それに会計事務所を構えたからには、調子が悪かったらすぐに撤退するというわけにはいかないからね、この仕事は。お客さんとの信頼関係があるから、「はい、やめました」なんていうわけにはなかない。一度だけ地方の事務所を閉めたことがあって、少し離れた場所に新設した事務所で業務を統合しようとしたのだけど、うまくはいかなかった。やっぱり地元だからこその強みってあるんだよね。

全体の流れとしては、地方会計事務所の高齢化とかがあるから、大手が地方にも事務所を構えるなどの寡占化が進むのは既定路線だろうね。小さくてもきちっとオペレーションできているところは生き残るだろうけど、どっちつかずの中間的な事務所はなくなるんだろうな。

カラオケバブルに巻き込まれたことがありました。

これまでに大きな失敗をされた経験はあるのでしょうか?

いろんなことをやったから。一番大変だったのはカラオケボックスを興したこと。オーナーっていうのは気分がよくて、最初は50店舗くらいまで増やしていこうなんて意気揚々としていたんだけど、参入して間もなくカラオケバブルが崩壊して。現場を任せた店長に聞いても「がんばります」しかいわなくて。4店舗を出したところで撤退をはじめたんだけど、これがすごく大変で。こういう事業で成功している人、本当に尊敬しますよ。私はそれで向かないってわかったから(笑)。
その点、会計事務所は開発コストがなく、人件費と家賃だけだから。

別事業からの参入を想定し、多角化を意識したほうがいいと思う。

今日の会計事務所業界には、どのような問題があるとお考えですか?

別事業からの参入を想定し、多角化を意識したほうがいいと思う。

BIG4で今話題になってるテーマって知ってる?いつグーグルが会計事務所業界に入ってくるかっていうことなんだよ。世界的な話でいくとね。みんな、まだピンときていないと思うけど、私はいつの時代か、税務が税理士の専任業務じゃなくなる日がくると思っているのね。私らを守ってくれている法律が変わってしまうということで、そうなったらほとんど食えなくなってしまうよな。でも、ありうるって思っている。そうなったら大事なのは多角化だね。富士フイルムも主事業以外にも手を広げてうまくやっている。フイルムが全盛期だった時代、フイルムが廃れた現代を少しでも予想できて、別の事業に着手できたということだ。うちの従業員に「税金がなくなったらどうする?」っていえば、きっと私の頭がおかしくなったのかって思われるだろうけどさ、そういった考えは無駄じゃないと思うよ。

あと身近なところでいうと、今は公務員が一番人気で、会計士も税理士も落ちてきているよね。だれかひとりでもいいから、スーパースターがいなきゃダメなんだよ。みなさんそんなことないと思うかもしれないけど、たったひとりで流れが変わるんだよね。スポーツの世界でもそう。業界全体を上げて、イメージの改善に取り組んでいかなきゃいけないんじゃないかな。

仕事でも趣味でも、企業マネージメントが楽しいね。

先生が今一番取り組まれてみたいことってなんですか?

いろいろやってみたけど、結局マネージメントが一番おもしろいと気がついたんだよ。ビジネスって仮説と検証の繰り返しで、目標があった頃はベンチマークしていたけど、今は方向の設計を自分で考えなきゃいけないからね。結構失敗もあるけど、実践できるというのは楽しいよね。仕事でもあり、趣味のようなものでもあるね。

キーワードは「成長」。だから、会社も個人も成長しなきゃおもしろくない。それだけで、シンプル。会社だって成長しなきゃ給料が上がらないし、個人的にも付き合う人たちが変わってきて、楽しみが広がる。

成長スピードの速さに驚かされるよ。

最大手と呼ばれる法人の少し手前辺り、
40代の先生方のいる会計事務所については、どのようにお感じですか?

全部知ってるわけじゃないけど、たとえば東京共同会計事務所の内山さんやベンチャーサポートの中村さんとか、大したものだと感じています。私が同じ歳だったときの3倍は売り上げを出しているんじゃないかな。ネット社会だから、成長のスピードが早いんだよね。

うちへおいで(笑)。

会計業界を目指してる方や業界に入って間もない方に、
メッセージをいただけますか。

うちへおいで(笑)。

商品のラインナップは多いから。
これからの会計人は、グーグルで検索出来る事しか知らないようではダメで、検索できないことをやらなきゃいけない。それが付加価値。それには、いろんな事例を勉強するしかないんだけど、一人で経験できることってすごく限られたものじゃない? 一時代、経験した事実だけを記した私小説というジャンルがあったけど、数冊の本を著して行き詰まってしまった人ばかりだったでしょ。原稿用紙1枚書くのに半日かかったり、家庭を不幸にしてしまったり。やっぱり、経験はみんなで共有するのがいいんだよ。他人の体験を自分の体験にしていかないと、これからの時代の付加価値は身につかない。この仕事は情報量が命だし、一定の規模がないと人材育成にまで手がまわらないっていうこともあるしね。

あと、知っておいて欲しいのは、時間は永遠じゃないということ。目標は期限も一緒に定めること。資格をとったら終わりっていう人は多いんだけど、そんなことはないよね。人生は長い。後悔先に立たずというけど、後悔しないためにも、がんばってほしいと思います。