茨城・水戸市 原口会計事務所
代表社員 税理士・茨城県税理士協同組合 副理事長
原口 哲也氏
筑波大学在学中に税理士2科目に合格。大学卒業後3年半の間、東京都内の会計事務所に勤務しながら税理士5科目に合格、税理士となったのをきっかけに、地元である水戸に戻り会計事務所を開業。開業医を中心とした顧客をメインとして成長し、現在は10名程の規模の会計事務所となる。また、個人事務所を営む傍ら、2004年より茨城県の税理士協同組合に参加し、現在は副理事長を務める。
資格取得から開業に至るまで
まだ、私が大学生だったころ、世間はバブルの真っただ中であり、世の中が何をやってもうまくいくのでは、と思えるほど好景気でした。卒業後の就職先にも困らない状況でしたが、一方で「このような状況はいつまでも続くはずはないな」と感じる部分もあり、税理士を目指すことにしました。税理士試験の中でも特に税法科目は難しく、大学入試の5倍くらい勉強した記憶があります。
税理士試験合格後は、水戸に戻って父の経営する会計事務所の一部を間借りし個人事務所を開業しました。最初の数年間は友人の紹介や顧客の紹介だけでも売上は伸びていきましたが、しばらくしてバブルが崩壊し、父の事務所で売掛金が滞るのが目立つようになりました。それを近くで見ていて、対策が必要であると感じたため、その頃から「中小企業よりも貸倒れる可能性が少ない顧客」を増やそうと考え、中でも医師を中心とした顧客開拓を始めました。
勤務医さんが、独立して新しくクリニックを開業する際のコンサルテーションに力を入れ始めてからは、順調に顧客数が伸びつつノウハウが貯まり、現在では売上の半分ほどが医療系の顧客となっています。
都市部と地方の違い、高齢化する地方会計業界の課題
都市部と地方、どちらも一長一短あると思いますが、近い将来、今まで以上に会計業務の電子化が進んでくると、海外より近くて、都市部より家賃や人件費が安い、地方事務所のほうが有利な部分も出てくるのではないでしょうか。
逆に中小事務所のサービス内容については、地域の差ではない部分で差別化が図られているように感じます。都市部には、都市部ならではのサービスを提供する事務所もありますが、逆に都内に少ないサービス、例えば我々が得意としている小さなクリニック向けの会計コンサルティング業務を専門に扱っている事務所が少ないようなのですが、そういったサービスを提供している地方事務所もあります。
また、違いではありませんが、地方の特徴として税理士の高齢化が進んでいる点が挙げられます。例えば、水戸の税理士の年齢を見てみると、190名中40名以上が80代以上となっており、高齢者の割合が非常に高いことがわかります。
複雑化する最新の税法を理解し、現場で活躍を続けるのは大変なことですし、所長の体調など様々な問題もありますので、ある程度の年齢を超えたら、万が一のことがあった時に顧客に迷惑をかけないような準備をしておく必要があると思います。その辺りの後継者問題は、地方の会計業界の課題と言えるかもしれません。
我々会計人に求められること
会計業界の方にとっては当たり前のことかもしれませんが、そもそも経営者が会計事務所に求めることは税金に関する相談だけということはありえません。どちらかというと、税務相談よりも経営者の様々な悩み相談の一時窓口としての役割を求められることが多いのではないでしょうか。そういった相談に応えるためにも、会計人には会計の専門知識以外に幅広い知識が要求されます。
ただ、勘違いしないで欲しいのは「経営者の愚痴や世間話を聞き、機嫌を取ることが仕事ではない」ということです。経営者とのコミュニケーションにおいて、そういった会話も大事ですが、その中から物事の本質を読み取り、その課題を解決するための提案をすることが会計人の仕事であることを忘れてはいけません。
そもそも、我々の顧客となる経営者の方々の仕事は、「判断すること」「決定すること」「責任を取ること」の3つです。経営者に我々会計人の判断を経営者に押し付けることをしてはいけませんし、経営者の代わりに物事を決定することも責任を取ることもできません。あくまでも、経営者が判断し、決定するために必要な情報や選択肢を提供することが会計人の仕事であり、いかに判断しやすい情報が提供できるかが会計人に求められていると私は考えています。
会計事務所は、サービス業ではあると思いますが何でも屋ではありません。専門知識をノウハウを活かしたサービスを提供することが我々会計人に求められている役割なのです。
カイケイ・ファンをご覧の皆様へ一言
他の職種と同様、会計に携わる場合でも性格によって進む道の選択肢は様々です。例えば、営業的なことが苦にならない方は独立開業すれば良いですし、営業に向いてない人は勤務税理士になればいい、というように色々な進路があります。
ただし、開業して営業に力を入れる場合でも、継続した知識のブラッシュアップが無いと、顧客に対し説得力のある提案が出来ません。また、勤務税理士の場合でも、顧客が何を求めているかをくみ取ってそれに応えていくコミュニケーション力が必要です。どのような会計人になるにしても、幅広い知識とコミュニケーション力の両方が必要とされます。
資格取得はゴールではなく、あくまでも会計人として「営業する権利」を得るスタートラインであり、その先には資格取得以上の努力が必要であることを覚えておかなければなりません。
会計人とは、国の3つの権利である「自衛権」「警察権」「徴税権」のうちの一つを担っており、若いうちから経営者相手に仕事ができる貴重な職業でもありますので、皆さんにもプライドを持った会計人を目指してほしいと思います。
(2012年10月1日掲載)