それは突然の訃報だった。
流通ジャーナリストの金子哲雄さんが去る10月2日、41歳の若さで亡くなった。鋭い視点と独特の口調で買い物情報を発信。生前、テレビの情報番組では、家電量販店での上手な値切り方を指南する姿で人気となり、「値切りの名人」「値切リスト」の異名を取った。肩書は「ジャーナリスト」だが、元々はコンサルタントとして大手石油会社から独立。その当時、コンサルタントという言葉が必ずしも良いイメージを持たれていなかったことを考え、専門の流通とジャーナリストを掛け合わせた独自の肩書を考案したという。税理士や会計士も、顧客企業のコンサルタントであり、特に独立を考えているのであれば、生前の金子さんから学ぶことは多いはずだ。
生前の金子さんと交流のあった起業コンサルタントは、「あんなに有名になられても、とてもとても礼儀正しい方でした」と偲ぶ。テレビの前の生活者に役立つ情報を届ける情熱はもちろんのこと、周囲への人一倍の心配りは高いプロ意識があったからだろう。その真骨頂だったのが、葬儀の時に世間の人をアッと驚かせた、参列者向けの手紙だった。
手紙では、自らの死について「早期リタイア制度を利用させていただいた」と軽妙に切り出す。さらに「第二の現場では、全国どこでも、すぐに行くことができる『魔法のドア』があるとうかがっております」「心あたたまるハッピーな話題、おトクなネタを探して、歩き回り、情報発信を継続したい所存です」と、死してなお変わらぬ仕事への意欲を示した。その文面から悲壮感を全く感じさせないあたり、参列者への気遣いがにじむ。金子さんは、肺カルチノイドという難病で余命を宣告されると、自らの葬儀の手配もきちんと進め、最期を迎えたという。
コンサルタントとして、顧客への対応もきめ細やかにしていた金子さん。名刺に盛り込まれた「おまけ情報」は、経営者に会う場合は「社員を連れて行くと喜びそうな居酒屋の情報」を、阪神ファンの人にはタイガースの小ネタを、それぞれ手渡すようにしていた。税理士や会計士も多種多彩のクライアントに巡り合うことだろう。金子さんのような「この人のために」というコンサル魂を持って仕事をしたいものだ。