大会議室の円卓で11人の男たちと、4人の男女のグループがやや離れて対峙している。
緊迫した空気に包まれる中、4人の代表者の男がおもむろに切り出した。「監査結果の報告をさせていただきます」―。これはNHKで2008年に放送されたドラマ「監査法人」の第1回の冒頭シーン。11人は大手スーパーの経営陣で、4人は同社の監査を行った監査法人の担当会計士たちだ。このシーンでは、豊原功補さん演じる会計士の現場責任者が、前回の実地検査で指摘した問題事項の改善がなかったとして、財務諸表を承認できないと通告。
ドラマ開始から5分も経たないうちにスーパーは粉飾決算発覚⇒上場廃止⇒経営破綻と追い込まれていく。同じ土曜ドラマの「ハゲタカ」ほどヒットはしなかったものの、監査法人と企業の決算書を巡る攻防を描いた珍しい作品だった。このドラマを見たことがきっかけで、会計士を目指すことを決めた人もいるかもしれない。
さて現実の攻防に目を向けてみよう。「粉飾決算」といっても色々な手口がある。その中には悪意がなくても記載漏れやミスで結果的に粉飾となるケースも多いという。これから会計士や税理士を目指す方々のために実態を少しだけ取り上げてみたい。
デロイト トーマツ FAS株式会社が2010年6月に発表したレポート「再生企業の粉飾決算の見分け方(1)~粉飾決算のメカニズム」によれば、「経営成績の改ざん等の目的のために架空の仕訳記帳を行う」「財務諸表に記録される金額に影響を与える可能性のある事実を隠蔽または開示しない」「企業の財政状態または経営成績を不実表示するために仕組まれた複雑な取引を行う」「取引の記録や条件を変更する」などが粉飾決算の主な手口だという。また、売上げや費用の操作、不適切な資産評価なども近年目立つようだ。
こうした「怪しい」決算書は、どのように見破られるのか?公認会計士の都井清史さんの著書「コツさえわかればすぐ使える粉飾決算の見分け方」(金融財政事情研究会)を参照してみよう。たとえば売上高が29億円の企業で、売上総利益が6億6,800万円、営業利益が2億4,500万円、経常利益が2000万円、純利益が2,400万円という損益計算書(P/L)があったとする。財務諸表を読めない人間がそうした数字を見れば、一見、利益が出ているように思える。
しかし、プロの会計士は様々な項目を点検していく。例えば営業外費用にある支払利息。これが2億7,200万円と計上されていたら、営業利益より多い。放置しておけば経常利益が赤字になりかねない。それでも経常利益が黒字というのは、雑収入で辛うじて補っている可能性が透けて見えてくる。監査でよくよく調べてみると、本業が思わしくなっていない―ということがあったりするわけだ。
会計士や税理士を目指せば、財務諸表の読み方が身に付いてくる。万が一、資格取得に至らなかったとしても、決算書の読み方のコツは分かってくるはずだ。もし受験を迷っている人がいれば、ビジネスパーソンとして必要なアカウンティングの素養を身に付ける意義が大きいという意味でも受験を前向きに検討してもらいたい。