老いて益々盛ん、とは、まさに彼のことを言うのだろう。
ハリウッドを代表する名優、クリント・イーストウッド。ここ10年近くは、「マディソン郡の橋」、「硫黄島からの手紙」など監督の立場に回ることが多かったが、「人生の特等席」で4年ぶりにスクリーンに主演で復帰した。存在感は82歳の今も健在だ。
イーストウッドが演じるのは、アトランタ・ブレーブスで古参のスカウトマン。高校生や大学生の試合を視察し、有望選手を発掘する。職人気質の頑固オヤジの役は打ってつけ。かつて妻の死も看取れず、一人娘も親戚に預けて育ててもらった程の筋金入りだ。物語は、老境に達し引退もちらつき始めた主人公と、成長して弁護士事務所の幹部昇格を目指す娘の親子関係の再構築が大きなテーマになる。
「前編」に続き、野球絡みの話になってしまった。ただ、この競技はデータと切り離せない関係にあるので後編でも取り上げたい。前回は、日本ハムが大谷投手のメジャー挑戦を翻意させる決め手となった数字のテクニックを紹介したが、今回は違う角度での話をする。
野球のデータにまつわる映画といえば、ブラッド・ピッドが実在の球団幹部を演じた「マネーボール」が以前ヒットした。作品の舞台となったオークランド・アスレチックスは、「人生の特等席」の主人公とは対極的な手法で選手を獲得する。球団は財政的に恵まれず、選手補強にお金がかけられない。しかし斬新な手法でデータを駆使し、他球団が見落としていた選手を発掘して、地区優勝を成し遂げる。
例えば打点が多いバッターは、チャンスに強くて有能に思われるが、アスレチックスの手法では、打点は「偶然の産物」と捉える。すなわち、バッターの打点は、本塁打で自分自身が生還する場合を除くと、たまたま塁上に前の打者が安打や四球でいた上での結果というわけだ。このチームでは、打点よりも重視するのは、全打席のうち安打や四死球で後ろの打者につなげた出塁率。安打を生むミートの正確さや選球眼など選手個人の能力は、打点よりも正確に裏付ける。
しかし、数字だけで100%の評価を下すのは危険だ。映画では、高校生の強打者の獲得を巡り、「マネーボール」のような統計重視の編成担当者と、イーストウッド演じる老スカウトの見解が対立する。編成担当者は球場に行かず、データを基にしている。一方、主人公は「タカの目」と評された眼を患いながらも長年の経験も加味し、そのスラッガーのある欠点を見抜き、ドラフトでの指名見送りを進言する。
ドラフトの結果など最後まで二転三転するストーリーの成り行きは、映画館で確認してもらえればと思う。ただ、作品を見れば数字だけでモノを見ることの危うさを学べるはずだ。会計士や税理士は、数字を追いかける仕事ではあるが、例えば独立開業している場合ならクライアントの社内をその目で確かめた上でないと思わぬ事態に直面する可能性がある。赤字続きから脱却し、黒字の決算書を急に提出してきたかと思いきや、会社の倉庫を偶然覗くと、実は在庫の山がある。あなたが社長に疑問を呈すると、「今度赤字だったら融資を打ち切られるのでは」と言われてしまう―というのはベタな典型例だろう。
数字を効果的に使いつつも過信はせず、現場で直接確認することが大切なのは、野球も会計も税務も同じではないだろうか。
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