今年で20周年となるサッカーJリーグ。アニバーサリー・シーズンまで約1カ月という段階で、前代未聞の不祥事が起きてしまった。
J1のFC東京の経理担当部長が過去8年間に約2,300万円を私的に流用していたことが社内調査で発覚。部長は事実関係を認めて、懲戒解雇となった。クラブ側の発表では、全額弁済する見通しだが、Jリーグのクラブ関係者が内部のお金を「横領」したのは初めての不祥事。FC東京の社長は3カ月、自らの報酬を2割カット。今後刑事事件に発展する可能性もありそうだ。
スポニチによると、不正は昨年12月に発覚。多額の請求書の支払い処理がきっかけだった。居酒屋やクラブなどの遊興費を「交際費」として不正に使い、新幹線を使ったことにする「カラ出張」の計上もあったようだ。Jリーグは2005年度以降、クラブ個別の経営情報の開示を始め、現在は各クラブに義務づけている。上場していないので法的な義務はないが、かつての横浜フリューゲルスが消滅したような事態を回避するためにも透明化が求められている。地域密着を掲げるJリーグでは、自治体が出資を一部しているクラブもあり公益性もある。野球界では、2004年に近鉄球団が経営難を理由にオリックスとの合併を突然発表して大騒動になったが、Jリーグは経営への監視体制が鋭い分、今回のFC東京のような不祥事は意外な衝撃だった。
会計士や税理士の志望者でサッカーファンなら、クラブの会計に興味を持つ人も多いだろう。たとえば選手の資産価値はどのように扱うだろうか?――サッカークラブの財務や会計について、ドイツW杯の日本代表主将だった宮本恒靖さんがとても面白いコラムを日経新聞に書いている。
宮本さんは引退後に渡英し、国際サッカー連盟(FIFA)が運営する大学院「FIFAマスター」への留学中。ここでは財務会計も学ぶ。バランスシート(BS)が資産と負債で構成されるのは一般の企業と同じだが、サッカーの場合、ユースチームからトップチームに昇格した生え抜きの選手は、バランスシートに計上されないというのだ。
その理由は、選手の金額が決まっていないから。サッカー選手の価値は、移籍金の額で表れるのはご存じの方も多いだろう。かつてクリスチアーノ・ロナウド選手がスペインのレアルマドリードに移籍した際、レアルが、元の所属先だったイングランドのマンチェスター・ユナイテッドに支払った約130億円という巨額の移籍金が話題になった。選手を獲得したクラブは、相手に支払った移籍金の額を資産としてBSに計上し、契約年数で減価償却するのだという。欧州サッカー界の会計では、この考え方が主流らしい。
逆に生え抜き選手はどんなにスターでもBSでは記載されない。宮本さんも触れているが、かつてのイタリア代表の守備の要、パオロ・マルディーニ元選手の場合はACミランでユースから引退までプレイしたので、会計上は金額が付かないわけだ。
最近は、会計士や税理士でフットサル愛好者も多いらしい。会計スキルを身につければサッカーを違った角度で見つめられるようになるだろう。Jリーグは今後3部制となり、小さなクラブも全国的に増えるはずなので、資格を取得すれば地方で仕事をしていても、監査や税務でサッカー界に携わるチャンスがあるかもしれない。