まさかとは思うが、本当に存在していた。 最近、ある弁護士事務所が月額顧問料を個人向け1,980円、法人でも3,980円などと信じられない金額設定をしていることに驚いたが、月々の顧問料0円をうたっている税理士事務所があるのだ。
ある事務所に至っては、会社設立、各種助成金の相談、設立後の税務署への届出書作成なども0円。自分で会社を設立すると20数万円かかるところを、20万弱でやってしまう、とアピールしている。
無料や破格の金額でサービスをうたい文句にして、たくさんの顧客を囲い込むのはマーケティングの常套手段だ。若者たちの間で流行っているソーシャルゲーム(ソシャゲー)などはその代表格だろう。矢野経済研究所の調べでは、2009年度に361億円だった市場は13年度が4256億円(予測)。無料でたくさんのユーザーを招き入れ、ゲームを楽しんでもらうビジネスモデルで業界は急成長してきた。ゲーム上のキャラクターを一気にパワーアップさせるためのアイテムといったオプションを課金することで元を取るのだ。ソシャゲーの会社は、そうした有料アイテムを欲しくなるように巧みに誘導する仕組みを設計している。ただ、特定のアイテムを完全にそろえることでレアアイテムを入手できるようにして、子供たちの射幸心をあおった「コンプリートガチャ」(コンプガチャ)については、さすがに社会的批判を浴び、業界も取りやめることになった。
さて、「顧問料0円」の税理士は、どのように元を取っているのだろうか。「0円」で注目させ、大量の見込み客を一気に抱え込む戦略であるはずだ。税理士事務所同士でも顧客の奪い合いが展開されている中で営業的にはうまいといえる。たくさんの顧客を抱えると、もろもろの手数料でオプションを付けたとしても割に合わなくなる印象もあるが、料金設定を綿密にすることで、ある程度、人的・時間的コストを下げられると考えているのだろう。たとえば多少は記帳の心得があるクライアントには、記帳代行は請け負わなくていいのだ。
ただ、ある税理士は利用者に対し、こうした格安設定の事務所サービスについて「年額で検討するべき」と注意を促す。年末調整や源泉徴収票作成、給与支払報告書作成などで様々なオプションを付けているうちに気が付けば、「トントン」ということになる場合があるのだという。年間トータルで経費をリーズナブルに見せて顧客にし、売上高が伸びる程、手数料を増やす形式にして後々「刈り取る」方式なわけだ。
逆に料金を設定する側からはどんな点に留意しなければならないのか。結局、ソシャゲーの「コンプガチャ」ではないが、一時的にサービスの“たたき売り”をして顧客を“勘違い”させてもうけるようでは、長い目で見ると信用を失うリスクもあるわけだ。仮にあなたが将来、税理士として独立し、顧客の囲い込み方法を思案したとき、責任をもって顧客に寄り添い、その会社の成長を手助けできるように心掛けてもらいたい。