天災は忘れた頃にやってくる、という格言ではないが、あのオリンパス事件に関する記事が久々に報道された。まずは日経新聞の記事(2013年3月23日朝刊)から。
■オリンパス不正会計 金融庁が会計士処分
金融庁は22日、オリンパスの不正会計問題に絡み、当時担当していた公認会計士のA氏※に業務停止3カ月の処分を下した。A氏はオリンパスが損失隠しに使った国内3社の企業価値の算定を依頼され、財務資料を含む十分な情報が得られないままで算定するなどしていた。(※記事は実名)
ネットで記事を読むと、どれくらいの扱いだったか分からないが、紙面では朝刊5面の左下に小さな文字で掲載されていた。いわゆるベタ記事とは一段扱いで、新聞記事で通常使われる大きさの文字で最も小さなものだが、処分のニュースはベタ記事よりも小さい扱いのいわゆる「短信」記事だった。筆者も紙面では見逃してしまったが、本職の会計士の方々も気付かなかったのではないだろうか。1,000億円を超える巨額損失を隠した歴代経営陣の不正を告発したイギリス人社長の解任劇を巡り、あれだけ世間が騒いだ事件の結末としては拍子抜けしてしまう。
ただ、インターネットの時代とは便利なもので、メディアが編集過程で削ぎ落した情報もかなり容易に入手できる。金融庁のホームページを見ると、報道発表した処分内容が掲載されているのだ。もちろん当該の会計士は実名をさらされているが、会計士の志望者としては処分内容を注視していただきたい。
処分理由の概略は以下の3点
1.情報が十分に得られず、適切な価値算定を行い得る状況になかったとみられるにもかかわらず、価値算定を行った。
2.十分な資料提供がない等の異常性を察知できたのに慎重な対応をすべきであったが、そうしなかった。
3.事業計画の実現可能性や事業計画期間以降の事業の成長性に関する様々な可能性を十分に考慮した検討をせずに価値算定を行った。
金融庁は「職業専門家たる公認会計士として、正当な注意を払って適切な判断で誠実に価値算定を行ったとは認められない」と厳しく指弾しているが、A氏は決して能力が低いわけではない。いや、それどころかその経歴から極めて優秀だったことがうかがえる。彼が他に監査を手掛けた会社の有価証券報告書によると、現在40代前半。名門私大を卒業する前から大手監査法人に勤務し(つまり在学中に試験に合格していた)、数年で外資系証券会社に転身。30歳で独立開業し、企業の取締役も務めている。
事件へのA氏の関与が取りざたされた当時、ある会計士がブログで「超大口顧客の意向を無視できなかったエンロン事件を彷彿とさせる」と指摘したように監査先との距離の取り方に苦悩することが会計士の宿命だ。しかし、この会計士は「プロフェッショナルとしてしてはならない仕事だった」と金融庁と同様の見解で批判もしている。事件は金融庁による監査体制見直しにもつながるなど甚大な影響を与えた。処分を報じた記事は小さいが、会計士の社会的使命は大きいと改めて考えさせられた。