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【コラム】 「鉄の女」が変えたお役所の会計

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英国のマーガレット・サッチャー元首相が亡くなった。 20代の会計士・税理士志望者は、「鉄の女」の異名で知られる彼女のことは歴史の教科書の登場人物としてしか認知されていないだろう。しかし毎年のように首相が変わる我が国からみると、11年半もの長きに渡って政権トップの地位を務めたという事実だけでも、ずば抜けていたことがうかがえるはず。

安倍首相が「意志の力を身をもって示した偉大なリーダー」と追悼したのを始め、日本の政治家に与えた影響は実に大きい。例えば、皆さんが通勤・通学に使うJR。昔は政府が経営する「国鉄」だったが、建設費や人件費がかさみ、「親方日の丸」的な非効率な経営もたたって債務は37兆円(!)にも膨張していた。そこで、当時の日本のトップだった中曽根首相が、サッチャー氏による国有化企業の民営化に倣う形で分割民営化に踏み込んだ。最近でいえば、安倍首相の教育改革も同様。サッチャー氏は、自国に自虐的な側面もある歴史教育にメスを入れ、学力向上のための全国統一テストを行ったが、安倍首相が模範としている。そういえば大阪の橋下市長による大阪都構想も、サッチャー流の手法が垣間見える。大阪都構想は、大阪府と大阪市の二重行政による効率の悪さをなくそうと、自治体の枠組みを東京都に倣う形で再編を目指しているが、これも“元ネタ”は80年代に行った首都ロンドンの自治制度の再編といえる。

「小さな政府」を掲げ、行政にも効率化を求める上では会計制度も重要になる。公共サービスといえども、民間と同じように、お金の流れをきちんと把握する必要がある。そのためにはバランスシートを作ってコストを計算するなどしてパフォーマンス向上を目指すのだが、サッチャー政権が際立ったのは、CCT(強制競争入札)という仕組みの導入だった。これは中央政府が、道路などの建設やごみ収集といった自治体の業務を入札制にし、自治体が、同じサービスを民間企業と争って落札しないようにするもので、落札のためには必死でスリムな経営を目指すようになる。サッチャー政権以後、英国ではお役所の会計制度(公会計)が発生主義による複式簿記に移行するなど、民間の手法を積極的に取り入れ、その効果で割高だった公共サービスのコスト削減につながった。

もちろん、公共サービスは必ずしも採算性を目指すべきものばかりではない。警察や消防のような仕事は収益を生まないが、治安維持や災害対応など社会に不可欠なものだ。「サッチャリズム」的な政策には批判も絶えない。日本でも、小泉政権の構造改革が格差社会を招いたとも言われたし、橋下市長の取り組みも波紋を呼んでいる。しかし、政府や自治体の仕事を進めるうえで必要なお金は無尽蔵なわけではない。日本の場合、国と地方を合わせて1000兆円を超える大変な債務を抱えている。財政が破綻すれば、公共サービスの著しい低下どころか世界第3位の経済大国の「倒産」となれば、世界経済に未曾有の事態を引き起こしかねない。そうした状況を少しでも変えていくためにはまずはお役所の会計制度が民間並みの意識で運営されているのは重要なのだ。

公会計の分野でも改革の道筋を付けたサッチャー氏。行財政改革が道半ばのわが国でも、その功績は長く語り継がれることだろう。

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