最近は新聞を取らない若者が主流になっているらしく、ネットのニュースを読むか、あるいは勤務先で購読している紙面に目を通すくらいのようだ。それでも「意識高い系」の方は日経新聞を電子版とセットで購読しているようなのだが、夕刊は夜が遅い仕事をしていると、つい、記事を見落としてしまいがち。ただ、税理士の志望者や若手なら、この記事は目に留まったかもしれない。日経新聞夕刊(2013年5月28日)一面から。
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【相続税の相談強化 税理士法人、無料窓口や地方拠点】
納税申告や税務相談を引き受ける税理士法人が相次ぎ体制を強化している。税制改正で2015年から相続税の課税対象となる人が増え、相続税の申告や相談が大幅に増加する見通しのためだ。人員の増強に加え、都心や首都圏で無料相談を始めたり、地方に事務所を増やしたりする例が目立つ。相続で移転する資産金額は年約50兆円との見方もあり、税理士法人による争奪戦が始まっている。
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引用は以上。記事の続きでは、個別の税理士事務所の新たな取り組みを紹介。無料相談サービスの拡充や、事務所・人員などの体制を広げる動きを紹介している。以前もコラムで紹介したが、税理士業界では、相続税制が改正される影響で課税対象者が拡大するに伴い、事務所へ駆け込む人が急増すると予想されている。来年までは基礎控除が5000万円+1000万円×法定相続人の数だったのが、15年以降は3000万円+600万円×法定相続人の数となる。たとえば土地の評価額が5000万円の家で相続人が2人の場合、現行制度なら全額が控除対象、つまり相続税は課されない。しかし新制度では、控除額が4200万円に減ってしまうので、800万円分が課税対象となる。
国税庁の見込みでは、2011年の課税件数約5万件に対し、2015年には約8万件にまで増えるというのだから、一大マーケットの誕生である。特に、税理士との付き合いに慣れた富裕層と違い、新たな課税対象となる「アッパーミドル」な人たちは不安に直面する。先述した事例でいえば、7000万円を超える資産額を持つ家はなかなかのお金持ちだが、5000万円となると割合、「げっ、ウチの実家、それくらいじゃん」と気付く方もいるのではないか。
「相続増税」の背景には、消費増税と同じく国の財政再建へ向けた税収増もあるが、やはり今後の人口減少・高齢化をにらんだ措置でもあるとみるべきだ。2011年時点で総人口に65歳以上が占める高齢化率は23%。これが2020年にはほぼ3割となり、40年には38%にも伸びる予測が立てられている。社会の人間が高齢化する以上、税金の支払い手の割合を増やさなければ国の税収は先細りする。今後の高齢化のスピードと財政状況の進展によっては、相続増税の対象がさらに広がっていくとみるべきだ。
その意味で、税理士志望者は、試験の科目選択の段階から相続税法を勉強しておけば実践的だ。人は必ず老いて、いつかは死ぬ。肉親がいれば相続は発生する。マーケットは不滅であり、拡大する一方。90年代初頭にタイムスリップする「バブルへGO!」という映画があったが、まさに「相続バブルへGO!」というわけだ。税理士法人が今後も相続対策を拡充し続けるのは間違いなく、むしろ同業者間の競争が激しくなる。老人ホームや葬儀事業を運営したり、提携したりする税理士事務所が出現するのではないだろうか。税理士の若手や、これから目指す人は「高齢化」を念頭に準備する必要がある。