3月決算の会社にとって、6月は定時株主総会の月。特に6月の最終日とその前日に多くの会社が総会を開催することはご存じだと思います。東証の統計では、3月決算の上場企業の4割超が、この集中日に総会を開催しています。
日本の企業は、株主が経営に口を出すことを避け、長らく「株主軽視」の批判を受けてきました。反対意見が全く出ない「シャンシャン総会」が良しとされる企業文化が、総会屋に付け入る隙を与えたとの指摘もあります。日時が重なる総会に株主本人が参加することができない集中日の慣習も、そういった文化の名残なのかもしれません。
資本を所有している株主が、経営内容をチェックするのは当然でしょう。しかし、株主は短期的な利益、つまり配当額を追求する傾向もあります。利益を再投資や労働分配に回さずに吐き出させることが、会社の長期的発展、ひいては日本経済に資するものなのか、との問題は株主軽視の問題とは別にあります。現在、株式市場が活況を呈していますが、事業の創出や賃金上昇につながるかは未知数です。「会社は誰のものか」という議論は、今後も折に触れて浮上してくるでしょう。
と、ここまで主に上場企業にとっての株主総会について概観してきましたが、多くの税理士が関与している中小企業では、また違った形で総会を軽視されがちです。中小企業では、総会そのものが行われず、議事録だけが形式的に作られる事例が多いのです。
確かに経営者の気持ちは理解できないことはありません。親族だけで株主が構成され、経営と所有が一体化している会社は、総会に意味を見いだせないでしょう。「中小企業の社長は融資の保証人になっている。『経営と所有の分離』などと呑気なことは言ってられるか!」という声も説得力はあります。
しかし、株主総会を開かないことの法的リスクは高いと知っておくべきです。親族とて一枚岩ではありません。適正な手続きを踏んでいなければ「そんな決議は行われていない」と無効を主張されてしまいます。とくに、役員給与の増額が決議された場合、一旦株主と経営者の間に亀裂が入るとリスクは非常に高くなります。
私は中小企業の社長に「総会はしっかり行うように」とアドバイスしています。何もどこかのホールを借りるといった格式張った会が必要なわけではありません。開催場所もどこでも良いのです。ある零細企業の社長は、そのアドバイスを聞いて、某有名居酒屋チェーン店の2階で総会を開催し、議事録にもそう記載。以降毎年株主が集まる機会として楽しみにしているそうです。
しかも、2006年施行の新会社法では、中小企業の実情に配慮し、総会が有効に行われたとされる要件が緩和されています。非公開会社の総会は原則として会日の1週間前までに招集し、会場で決議を行わなければなりませんが、招集は株主全員の同意があれば省略が可能。また、決議についても株主全員が書面やメールで同意すれば省略できます。
さて会計人としては、株主総会が「会社は誰のものか」という問いを経営者に考えてもらう重要な機会と位置付けたいものです。経営に人の目が入る機会を設けることは、個人とは別の会社の姿を再確認する意味で重要であることは間違いありません。私たちには、経営者の方々に1年に1度、この古くて新しい「難問」に、ある程度の緊張感を持って向き合ってもらうよう促す役割があるのだと思います。