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【会計士Xの裏帳簿】消費税の「価格転嫁問題」をどう考える?

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2013年7月5日掲載

先日、消費税増税に伴い下請への支払いに増税分を適正に転嫁させることを目的とした「消費税転嫁法案」が可決、成立しました。同法についてメディアで多く取り上げられているポイントは、小売店が「消費税還元セール」のように、増税分の消費税が課税されないかのような宣伝を行うことの禁止です。

私はセール表示の規制は筋が悪いと思っています。当然のことながら「消費税還元セール」を銘打とうが打つまいが、増税後は売上に8%なり10%の消費税が課税されます。「還元セールをしているから仕入の消費税は据え置きにします」などということは、もとより通りません。セール表示は価格転嫁がなされないことの直接の原因ではなく、本質的な問題は、実際に下請へ増税分を上乗せした支払いが行われるか否かです。

しかし、表示が下請事業者への価格転嫁の阻害要因になる側面があるということも理解はできます。現実的に、過去の消費税増税時には、下請事業者に増税分を「販売奨励金」など様々な名目でバックさせる下請法の違反事例が数多く発生しました。消費税制の性格を誤認させるような表示を規制することに、ある程度の意味はあるのです。

消費税の価格転嫁問題について議論がしばしば混乱するのは、正にこのような「制度論」と「現実論」の食い違いです。よく中小企業団体等による消費税増税反対論で「下請けいじめを助長する」という根拠が示されます。それに対し、税務会計の専門家に多いのですが、「消費税は最終消費者が負担するもの。事業者間の下請けいじめの話を持ち出すのは議論のすりかえだ」と制度論を前面に出して反論してばかりで、延々と話がすれ違ってしまうのです。

確かに、事業者の中に税制について明らかに勘違いしている人がいるのも事実です。しかし会計人が経営者に比べて税制の知識があるのは当たり前です。「このような現実がある」という意見に対して、「制度上はそういうものではない」という、木で鼻をくくったような返答をするのはいかがなものでしょうか。

消費税の価格転嫁について考える際に必要なことは、現実に起きている下請への値引きや買い叩きの原因が何なのかを突き詰めて考える視点です。法律的には、下請法などの公正取引に関する法制、運用に原因があるのか、消費税制そのものの不備に原因があるのか、に大別され、その解決方法も大きく分けて2つに整理されます。

まず1つ目の解決策は、消費税制の仕組みは変えずに、下請関連法制を厳格に適用し、消費税の価格転嫁を促すこと。今回の法律は、その流れにあるものといえます。もう一つは、現在の消費税の課税方法である「帳簿方式」から、消費税額が記載された送り状(インボイス)によってのみ仕入税額控除を認める仕組みに変えるなど、消費税課税の仕組みに手をいれる方法です。

インボイス方式の導入は消費税スタート時から浮かんでは消えていきました。日本税理士会連合会は、事業者の事務負担が増えるなどの理由で反対の立場を示していますが、専門家の間でも議論は分かれています。税制に関する議論には実務家による現実に即した意見が必要です。私も実は、まだこの問題についてはっきりとした意見を持っているわけではないのですが、事業者の生の声に耳を傾けながら、じっくり考えてみたいと思っています。

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