日本生命が契約者を対象に行ったアンケート調査によると、今夏の20代から50代のボーナス平均支給額は55万9000円で、去年から6万4000円上昇。アベノミクスによる円安で、輸出産業を中心に企業業績が回復したことがアップにつながったものと思われます。
賃金は、景気の上下が額に反映されるまでに時間がかかる「遅行指標」のひとつ。基本給が年度ごとに改定されるものであり、また一旦上げると減給しにくいため、先々の見通しを加味して慎重に決定されることが主な理由です。一方ボーナスは原則的に支給のたびに査定が行われ、アップさせても将来を拘束しにくいという性格があり、比較的即効性があります。
今夏のボーナスアップについて、会計事務所に勤務する税理士への影響はどうみればよいでしょうか。税理士は専門職だけに、平均的なサラリーマンと比べると給与は高額であるといえます。しかし、この夏にボーナスの額が上がるかどうかは微妙だと感じます。
税理士事務所の売上の多くを占めるのが、企業からの月々の顧問料。顧問契約は様々な税務会計のニーズに包括的に対応できるため、税理士業務と親和性が高い契約形態です。しかし、顧問料は一旦決めると変えにくく、給与以上に引き上げが難しい面があります。「創業当初から関与している会社の顧問料が何十年も変わっていない」という例も非常に多いのです。
この収益構造は当然、勤務税理士や事務所職員のボーナスにも影響します。顧問先に大きく業績が上がった会社があっても、顧問料を引き上げることは困難だとすると、収益を上げるには新規契約を取らなくてはなりません。景気が本格的に回復し、事業会社に新たな税務需要が発生するまでは、業績は上がらないことになります。
しかも、今夏は電気料金の値上げもあり、原油をはじめとした輸入関連物品の価格上昇も予想されます。税理士事務所の中には、諸経費の負担増で、短期的には業績が下がってしまうところも出てくる可能性があります。勤務税理士の給与は、ボーナスを含めて「究極の遅行指標」ということになりかねません。
しかし、税理士事務所の業務の中にも、物価高が報酬にすぐに反映するものもあります。例えば、相続業務の多くは、相続財産の額と報酬が連動しています。株高や不動産価格の上昇等により財産評価額が上がれば、報酬額はアップするでしょう。課税対象が拡大される相続税は市場拡大が期待されている分野ですが、景気に収益が連動する業務としても注目が高まってくるのではないでしょうか。
税理士業界では、税務の付加価値サービスの多様性が増したことから「顧問契約はなくなる」と唱える方もいます。
それは極論であるとしても、相続案件のみならず事業者を対象とした会計税務でも、時代の変化にきめ細かく対応する「商品開発」を行い、新たな需要を素早くキャッチすることが必要であると肌で感じています。