先日、浅草寺病院で起こった横領事件についての報道がありました。警察発表によると、病院を利用した僧侶の診療費として寺から振り出された2億円以上の小切手を病院の元経理課長が横領し、利益に計上せずに換金していたそうです。
このニュースで注目されるところは、横領が税務調査の過程で発覚したということです。経営者にとって税務調査は、不正を働いているわけではなくても独特の緊張感があります。なるべくなら避けたいのが人情でしょう。なぜなら、ときには税務調査で経営者が把握していなかった従業員による巨額横領が明るみに出ることがあるからです。
税務署がこのような横領を発見できるのは、売上除外が脱税の常套手段でもあるからです。特に現金商売の飲食業等では、レジをあけっぱなしにして売上を計上しない、あるいはレジペーパー(ジャーナル)を処分するなどの手口で、売上を除外する不正が発生しがちになります。
当局には横領自体を発見する意図はないのですが、脱税を発見するために売上除外を徹底して調べることで、従業員の不正行為があぶり出されます。経営者が脱税に全く心当たりがなく、頑強に否定するも、社内で調査すると実は・・・、といった事例は数しれません。
こういった売上除外は、仕訳上はとくに不自然さが現れないことが多いため、税理士が発見するのは困難です。税務署は、仕入れ額からの売上の逆算、同業他社との利益の比較などで、売上除外の疑いがある会社にあたりをつけているため、税理士ではわからない不正を発見できるわけです。
税理士・会計士も、顧問先から「どうも社員が横領をしているようだ」という相談を受けることがあります。税務当局ほどの深度を持った調査は難しいかもしれませんが、簡易な調査フローを作り、チェックできるようにしておくとよいでしょう。最近では、米国発祥の不正検査士(CFE)の資格を取り、差別化を図る会計人も出てきているようです。
社員の横領を発見し、賠償請求をしたり、ときには刑事告訴をしたりといったことも重要かもしれませんが、最も大事なことは、発生を未然に防ぐことであるのは言うまでもありません。現金の管理方法や、経費の請求方法を適正化することにより、横領はかなりの部分を防げるものでもあります。
公認会計士の重要な役割として、不正のチェック体制に限らず、業務内容を適正化する内部統制のシステム監査がありますが、中小企業や個人事業主にも、会計士・税理士が不正リスクを低減する体制を強化するためのコンサルティングを提供することが必要なのではないでしょうか。
カイケイ・ファン ナビゲーターによるコメント