2013年8月30日掲載
躍進する楽天イーグルス
プロ野球・楽天イーグルスが球界参入9シーズン目にして、初のリーグ優勝が現実味を帯びてきた。振り返れば1年目の2005年は38勝97敗1分けで断トツの最下位。オリックス・近鉄の合併で、弾き出された主力級ではない選手の寄せ集めでは当然の苦戦だった。
2年目以降は、名将・野村克也氏を監督に招き、2009年に2位と初のAクラス入り。2011年は東日本大震災に見舞われ、本拠地の日本製紙クリネックススタジアム宮城(Kスタ宮城)も損傷を受ける試練にあったが、星野仙一監督就任3年目の今季は、初めて前半戦を首位ターン。8月前半段階でも失速せず、悲願達成へ大きく近づいている。
プレーの方で結果を出すには時間がかかったが、かつては不人気だったパ・リーグで、絶対不可能と言われた球団の単年度黒字を初年度から達成するなど早くから成果を出した。興業面では、新規参入球団らしい斬新な取り組みを次々に断行し他球団も追随してきたが、その象徴なのが、本拠地のKスタ宮城だ。かつての県営宮城球場の使用権を取得し、一大リノベーション工事を行って全く新しいスタジアムに作り替えた。メジャーの球場を彷彿とさせるオシャレなデザイン、バックネット後方の「砂かぶり席」、右中間に配置された国内最大級のオーロラビジョン……観戦に行けば、国内の既存球場とは明らかに違う雰囲気に魅了されるはずだ。
収容人員が少ないスタジアムの謎
ところが、Kスタ宮城は12球団のスタジアムでも目立って収容人員が少ない。
今年も開幕時点では2万3千人。東京ドーム(5万5千人)や甲子園(4万7千人)のような大都市の球場には勿論、同じ地方都市にある広島のマツダスタジアム(3万3千人)と比べてもかなり少ない。ただ、さすがに優勝、さらには日本シリーズ初の進出も見えてきたためか。8月に入って、楽天はKスタ宮城の観客席の増設を発表した。現在約2万3千の収容人員に加え、内野の三塁側後方に約9百席、左中間にある盛り土(通称・楽天山)の後方にも約1千2百席を増設。日本シリーズ進出も見越した突貫工事で9月中にはキャパシティーを2万5千人まで引き上げる計画だという。
日本シリーズやオールスターのような大舞台開催となれば、ゲームを主催する主体が球団からNPB(日本野球機構)に移ることもあり、売り上げが楽天球団だけの営業問題でなくなってくる。このため球界内では長年、Kスタ宮城の増設を求める意見が相次いでいた。それでも楽天側は、観客席の増設には慎重な態度を取ってきた。当然、「器」が小さければ、売り上げのパイも増えないように思えるが、なぜなのか?
アメリカ流?楽天の営業戦略
実は、伝統的な球団と楽天は異なる営業戦略を採っている。
球団の創立メンバーの一人は「観客席にお客が点在している状態が見えてしまうと、かえってイメージが良くないのでは」とブランド重視の意向を見せる。春先の東北地方は、プロ野球開幕からしばらくしても5月の初旬くらいまでは日中も結構冷え込む。夜間ならば尚更で、春先の平日ナイターは1万人を割り込む日もある。もし仮に4万人収容のスタジアムでその様子がテレビ中継されたら、「閑古鳥」の印象を視聴者に植え付けかねない。
野球ビジネスで日本よりも遥かに先を行くアメリカでは、人気球団であってもスタジアムを敢えて増設しない営業手法を取るケースがある。レッドソックスの球場フェンウェイパークの収容人員は3万8千人。ボストンの名門球団の本拠地でありながら、メジャーの球場でも特に少ない方だ。しかし、その方がファンの飢餓感をあおる。2009年には550試合連続の公式戦完売記録を達成した。楽天球団は幹部が創立時からメジャーでの視察を重ねており、こうした手法を応用したとみえる。
会計士や税理士の方で経営コンサルティングをされている方も多いはず。
楽天球団の「プレミアム」営業戦略はなかなか高等な手法ではあるが、ペナントレース終盤の行方と合わせ、興業面の動向にも注目すると業務のヒントがあるかもしれない。