2013年9月3日掲載
18年ぶりチケット値上げの背景とは
今年の夏の甲子園大会は、群馬の前橋育英の優勝で幕を閉じた。
今年も、球児たちが白球を追う姿に感動した方も多いだろう。会計士、税理士の皆さんでも「私も高校は野球部でプレーしていた」という方、中には「甲子園に出ました」という方もいることだろう。今大会は、準々決勝と準決勝の前に休養日を入れるなど、選手のコンディションに少し配慮した変更が特徴的であった。
野球そのものを楽しむと同時に、高校野球をビジネスの視点で見ると今年は注目したいニュースもあった。この夏の大会からチケットが値上げされたのだ。具体的には、ネット裏の中央特別自由席が1600円から2000円に、一塁・三塁側の特別自由席が1200円から1500円に、アルプス席が500円から600円にと、それぞれ変更した。本格的な値上げは18年ぶりというから、阪神淡路大震災で観客席が一部損傷した1995年以来。大会を主催する日本高等学校野球連盟(高野連)と朝日新聞社は収益悪化を理由に挙げているそうだ。これまで「儲け」という考えと一線を画して運営されてきただけに、高野連の経営状態が気になるところだ。
会計の視点から見た高野連
高野連は、公益財団法人なので、監督官庁である文部科学省に毎年必ず、事業内容や財務情報を報告しなければならない。その公共性から上場会社と同様の高い透明性が求められ、ホームページにアクセスすると近年の事業や予算、決算などの報告書のPDFファイルがダウンロードできる。民間企業の財務諸表と若干相違点もあるようだが、高校野球ファンの会計士、税理士の方なら自分の目で閲覧してみると、発見があるかもしれない。
そこで、決算報告書について過去5年度分(2007年度~12年度)を見比べてみると、流動資産は3,876万円とやや増加しているが、資産全体で見ると、一般の純資産にあたる正味財産を19億から14億円に減らすなど、“経営体力”が落ちていることがうかがえる。6億6千万円の経常収益(昨年度)の大半は、春夏の大会などの事業収入だ。大阪桐蔭が史上7校目の春夏連覇を遂げた昨年度は6億1千万円。2007年度より5千万円も落ち込んでいる。台所事情は決して楽ではないのだ。
ビジネスモデル見直しの時期?
スポーツビジネスの売上げ柱は、①入場料収入などの「チケット」②球場内広告など「スポンサー」③メガホンなど関連商品による「グッズ」④放送局に試合を中継する権利(放映権)を売る「テレビ」――が主な柱だ。営利企業体であるプロ野球は勿論、高野連と同じ公益財団法人である日本相撲協会も同様のビジネスモデルだ。特にテレビの放映権料は、やり方によっては、欧州サッカーや米大リーグのように「打ち出の小づち」になれる収益源。しかし高野連はNHKなどから放映権料を得ていない。
高野連が放映権に乗り出さないのは、テレビ局側の都合で運営を左右されたくない等の意識があるからという噂もある。かつてはプロ野球と絶縁に近い状態だった程の厳格なアマチュア主義もあって、ここまで運営してきたが、経営に黄信号が点灯し始めているだけに、大胆な見直しが行われるかもしれない。