「観光立国」への道
これも震災の痛手が薄らいできた一つの事例なのか。
日本政府観光局(JNTO)によると、7月の訪日外国人観光客が単月としては初めて100万人を突破したそうだ。東日本大震災や尖閣諸島問題などにより、日本旅行が敬遠される時期もあったが、今年は初めて年間1,000万人の達成も視野に入っているという。観光業界のクライアントを持つ会計士、税理士の皆さんも多いと思うが、都市部以外にも外国人の客足をつかもうという波が広がっている。地方在勤の会計人の方々も外国人観光を巡る動きにはアンテナを立てておいた方がいいだろう。
そもそも、日本はかつて京都を始めとした観光資源がありながら、先進国のなかでも外国人観光客を十分に取り込んでいるとは言い難かった。人口減少で内需の先細りを考えると、成長戦略の一つに観光も重視せざるを得ない。日本が国を挙げて「観光立国」に本腰を入れたのが2000年代に入ってから。2007年、前回の安倍政権下で議員立法による「観光立国推進基本法」が成立。その後、観光庁も設定された。海外の旅行会社に日本向けツアーの企画・販売をプロモート、海外メディアを通じた広報活動をするなどした。
訪日観光客数は増加している
そうした取り組みが実り、訪日観光客の数は、2006年には733万人、2007年には834万人、2008年は835万人と着実に増加。2009年はリーマンショックや新型インフルエンザ流行などの影響で、679万人と18%も減少する憂き目を見たが、2010年には861万人に回復した。しかし、2011年の東日本大震災と原発事故の影響で621万人まで急減。2012年は837万人にまでようやく回復したが、今度は同年9月に日本政府の尖閣諸島国有化で中国からの客足が離れるなど紆余曲折を経ていた。
今年は1~7月の累計で前年度比2割超の596万人が来日し、初の年間1,000万人も視野に入っているという。客足が戻ってきたのは円安効果。アベノミクスも加わって、「割安感」が強まったとみられる。また、格安航空会社(LCC)の相次ぐ開通で、韓国・台湾から若い女性客が訪れやすくなった。
外国人観光客のハートをつかめ!
そうしたお膳立てが整ってきたところで、今度は具体的にどのように外国人の皆さんに地元へ来てもらうかが焦点になる。「おらが街の観光戦略」を立てる上で参考になるのが観光庁の「訪日外国人消費動向調査」だ。3カ月おきに同庁のホームページで定期的に配信しているのだが、日本国内での旅行支出額(2012年)を国別にみると、オーストラリア(17万5千円)、ロシア(16万5千円)、中国(16万円)の順になる。近隣の韓国や、増加傾向が著しい東南アジア諸国からの観光客は、数は多いもののどこの国に「太い客」候補が多いかが分かる。すでに北海道ではオーストラリアからのスキー客呼び込みが盛んだが、ロシアや中国のお金持ちにターゲットを絞って、彼らの嗜好を分析した上でプランを組んで、現地の旅行業者に売り込むルートを探してもいいだろう。
「リピート客」も意識したい。調査では、今回実施した活動と次回実施したい活動を外国人に尋ねており、「次回したい活動」で注目されるのが温泉入浴だ。日本食を食べることやショッピング等は実施済みの方が多かったが、温泉入浴は次回の活動に挙げる人の方が10ポイント上回り、次のお楽しみに取っていることが分かる。箱根や草津などの温泉街では、外国人呼び込みに力を入れているが、東京近郊では八王子の高尾山で温泉開発が進んでおり、成功すれば新たな商機になりそうだ。これまでのところ訪日した観光客の足は東京や京都などの定番の場所に向きがちなだけに、温泉のような売り物のある地方の街は力を入れてもいい。地元の会計士、税理士が、クライアントに「観光立国」戦略を提案するのも面白いと思う。
(文/新田哲史=コラムニスト、記事提供/株式会社エスタイル)