TRF、globe、安室奈美恵、華原朋美……かつてヒットチャートを席巻した「小室ファミリー」の面々だ。日本の音楽業界史上で最もCDが売れたのが1998年。あの頃は、小室哲哉氏がプロデュースする作品がランキング上位を“占拠”することもあった。あなたがいま30歳の若手会計人なら15歳。勉強の合間に聴いていた人も多いのではないだろうか。
小室氏が主要拠点にしていたレコード会社がエイベックスだ。小室ブームの後もEvery Little Thing、浜崎あゆみ、倖田來未、EXILEなど、そうそうたるスターを輩出してきた。彼らの生みの親であり、エイベックスの創業者の松浦勝人氏が最近ネット上で、富裕層への課税強化に不満をもらして話題になっているのはご存じだろうか?
政府は2015年度から、4,000万円を超える所得に対する税率を45%と現行よりも5%引き上げることを正式決定。相続税についても2億円を超えると45%に、6億円を超えると55%と、こちらも現行より5%アップとなる。こうした課税強化の流れに、松浦氏は8月3日付のFacebookで、「こんな僕でさえ富裕層といわれるならば」という切り出しで始まる記事を投稿。「僕は日本が大好きだが、日本は僕らを嫌いなようだ」「僕としては、税金は個人の所得報酬に対して50%という国との折半が我慢の限界だった」などと嘆き、「所得税が20%代の国はたくさんある。相続税のない国もある。こんなことをしていたら富裕層はどんどん日本から離れていくだろう」と、お金持ちからの視点で国に“異論”を申し立てた。
松浦氏は昨年度の役員報酬が4億5,000万円で、自社の大株主としての配当収入も合わせると6億5,000万円もの所得を得ているようだ。庶民感覚からすれば、「何を寝言をいっているんだ」という怒りがわき起こりそうだが(実際にネットでは炎上した)、東京・町田市で輸入レコードの卸会社として出発し、10年余りで日本の音楽業界を代表するコンテンツ事業会社にのぼり詰めた起業家としては、日本社会で根強くささやかれる「金持ちいじめ」的な税制に不満を持つのは無理もなかろう。米国のように、巨額の資産を築いてしまった起業家が慈善団体などに多額の寄付をしても、日本では見返りは多くない。松浦氏がどこまで社会への還元に関心があるのかは分からないが、実業界の成功者のモチベーションを維持してもらうための施策は進めていくべきだろう。
さて、そうはいっても増税は目前だ。この記事を読んでいる会計人、特に税理士の中には、松浦氏ほどではないにせよ、富裕層のクライアントの資産管理を請け負っている方もいるだろう。独立したい若手税理士ならそういう「太い客」を持っていることも重要なので、松浦氏が一石を投じた資産強化の件は他人事だと思わない方がいい。以前のコラム(税理士も「資産フライト」に備える時代)でも触れたとおり、今年の大みそかからは国外資産の申告を義務付ける「国外財産調書制度」がスタートすることもあって、海外への「資産フライト」への関心は近年急速に強まっている。グローバルな資産移転への対応力を身につけたいところだ。
(文/新田哲史=コラムニスト、記事提供/株式会社エスタイル)
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