下請法ガイドラインにアニメーション制作業が追加に
当コラムでも何度か取り上げましたが、消費税増税後の重点的な課題となるのが、下請事業者への価格転嫁の問題です。
下請法では、下請契約を一方的に下請事業者に不利に条件変更をすることを禁止しています。消費税増税のタイミングで価格を据え置く行為も違反に当たり、政府は新法の制定など、取締を強化する動きを見せています。
中小企業庁はこのほど、平成25年度上半期(4月~9月)の下請法に基づく取締状況を公表しました。それによると、同期間中、約24万社に書面調査を行い、518社、1360件の違反行為に対し書面で改善指導。減額した下請代金等約3億2787万円の返還を親事業者に指導しています。
調査・指導の件数は、前年度に比べ目立った変化はないようですが、来年度以降、同調査の重要性が増すことは間違いなく、動向が注目されるところです。
ところで、中小企業庁では、調査状況のほかに、下請法の違反が起こりがちな業種について「下請ガイドライン」を作成し、注意を喚起しています。取り上げられている業種は、前年度まで製造業や建設業、運送業など15業種がありましたが、今年度に一つ、新たな業種が付け加えられています。
それは「アニメーション制作業」です。
親事業者の「むちゃぶり」も下請法違反
同ガイドラインの内容は、どの業種であっても共通する制度の解説が主となっているのですが、業種独特の取引の特徴、慣行に合わせた注意点が記載されています。
私は制作会社、個人事業のCGアーティストに知り合いがいるのですが、ガイドラインの中の下請業者のコメントについて、全く同じ話を聞いたものがありましたので紹介しておきます。
「他社が担当する前工程の作業の遅れにより、自社が担当する作業スケジュールが非常に厳しくなるケースがあるが、納期の延長や作業期間の減少に伴うコスト増分の代金増額などは認められない」というものです。
アニメ制作の大きな特徴は、会社、個人事業主を含め、工程が多層化していること。他社が原因で当初の契約とは異なる状況になったにもかかわらず、代金、納期に反映されず、下請事業者に負担を負わせることは、直接的な価格の減額がなくても下請法違反となります。
アニメやゲームは、「日本が世界に誇る」と持ち上げられることも多い業界です。しかし、中国や韓国などへの発注も多く、業者には競争の激化があり、日本の下請事業者の苦境が伝えられています。
残念ながら、「世界に誇れない」取引慣行や労働環境があるのも事実です。アニメーション、CG制作の下請会社は、残業代を払わない、過重な深夜労働などの「ブラック」的要素を指摘されることも多くあります。その原因の一つが、親事業者の「むちゃぶり」にあるとすれば、まさに悪循環です。
当局が「ガイドライン」を発表したことは、穿った見方をすれば、今後その業界について調査を重点的に行うというメッセージともいえます。会計人は、消費税の取り扱いはもちろん、下請法の規定について、親事業者、下請事業者双方に対して周知し、適正な取引が行われるよう促す必要がありそうです。