「領収書山積み」の個人事業主たち
所得税の確定申告期が近づいてきました。個人へ向けた確定申告サポート業務を行っている税理士は、本格的な繁忙期に入ります。
所得税は、法人税とともに日本の所得課税の根幹をなす税目です。しかし、そもそも所得税の納税者として最も多いサラリーマンは確定申告とは無縁。税理士にとって所得税の確定申告は、収益につながりにくい業務であるとも語られています。
税理士の成功ノウハウとしてよく言われることは「いかに法人(会社)とのつながりをつくるか」。若い税理士の方々も、独立するまでは「経理に悩む個人事業主の力になりたい」といった理想を抱いている方が多いのですが、いざ事務所を立ち上げると、資産税はともかく、個人所得税の業務を成り立たせることの難しさを身にしみて感じるものです。
同じ事業者ですから、会社組織であるか否かそれ自体に特別な意味があるわけではないでしょう。しかし、個人と法人ではやはり資金力が違います。企業では、税理士への顧問料が「予算化」されることで、継続率が高くなり、安定した収益源になりやすい傾向もあります。
もちろん、個人事業主に会計税務への需要がないわけではありません。この時期、山積みになった一年分の領収書を前に途方に暮れる事業者が多いのは確かです。税理士の中には、毎年税務署での申告書作成指導、青色申告会等での確定申告に関するセミナー講師などに従事される方がいます。個人を対象とした業務は、「社会貢献活動」の色を帯びているともいえます。
「一年分をまとめて」といった記帳代行の仕事は、仕訳を一つ一つ会計ソフトに入力するマンパワーが必要です。仕事内容で差別化がしにくく、料金の安い業者が増えてきたことで競争も激化。収益性がさらに下がっている現状もあります。
記帳ノウハウを提供し、付加価値業務に注力
税理士の中には、個人事業主へ向けた記帳代行業務は新規案件を受けず、独占業務である申告業務のみに集中し、より付加価値の高い業務へシフトを図る方も増えています。また、個人事業主への記帳業務を、ほかの事業者にアウトソーシングする事務所も出てきました。
これらは必然的な流れでもありますが、アウトソーシングには質の問題があります。簿記の知識が足りない人に記帳を任せたことが原因でミスが発生すれば、税理士の信用問題にもつながります。
そこで、最近登場してきたのが、記帳を行う事業者を「育てる」ことに自身の役割を見出す税理士です。記帳代行へ参入しようと考える会社や、行政書士等の他士業者に、記帳ノウハウをセミナーで教え、実務で発生した疑問に答える相談窓口を設けるなどのサポート体制を敷いているのです。
このようなネットワークを構築することで、他事業者がそれぞれ集客した記帳代行のクライアントの確定申告業務を受けることも期待できます。申告書の作成は、記帳をした人との意思疎通が必要なので、普段から記帳についてサポートしている相手であれば、申告業務の効率もアップするでしょう。
会計をとりまく状況が大きく組み変わる中、需要はありながら事業化しにくい個人事業主の会計税務を、税理士事務所の収益事業としていくための仕組みづくりを行う視点が、さらに重要になっていくのではないでしょうか。