時々、株価鑑定の話を聞くけれど……
時々、公認会計士の方から、非上場株式の株価鑑定の話を伺う。そして、その会社の借方項目に多額の不動産が含まれる場合に、筆者も何度か案件に関与させていただいたことがある。
そんな時、公認会計士の方から「一般の方への株価鑑定の説明って難しくって……」と言われるのだが、確かにコツを知らないと難しいと思う。ただ、その時の筆者の返答が秀逸であったと思うので、ここでも披露させていただければと思う。
物や権利は売り手と買い手が合意すればどんな金額で売買してもよいのか
読者の皆様は、「物や権利って、売り手と買い手が合意すればどんな金額で売買しても法令違反にならないの?」という問いに、どうお答えになるであろうか。
答えは、他に契約等で縛りがない限り「原則としていくらで売買してもよい」である。不動産の場合は地価公示法で土地の取引を行う者は「公示価格等を指標にする」ことが義務付けられる等の規定はあるが、基本的に自由と考えてよい。
では鑑定評価とは何なのか?
筆者が不動産鑑定の説明する時に使う例なのだが、このような場合を考えていただきたい。 今、例えば東京なら秋葉原や乃木坂、名古屋なら栄、関西なら難波、福岡なら博多辺りを想定していただければ結構だが、大都市の繁華街に友人が100㎡の土地を持っていて、他人に10万円で売却しようとしていたとしよう。この取引は、「売り手と買い手が合意すれば、原則としていくらで売買してもよい」から法的な問題はない。
しかし、読者の皆様は多分「止める」であろう。では、何故「止める」のであろうか。
世間一般から見て妥当と判断される価格=公正価値
恐らく、読者の皆様は上記の土地の価値が10万円より遥かに高いと判断したから止めたのではないだろうか。即ち、取引相場等に基づく「世間一般から見て妥当と判断される価格」と比較し、極端に安い価格で売却し損すると感じたから止めたのである。
要するに、「世間一般から見て妥当と判断される価格」、即ち「公正価値」を知ることで、損得等の判断を通じ適切な意思決定ができるのである。
そして、上記では売買を例にとったが、例えば相続時の資産配分等や民事再生、財務調査等の売買が伴わない価値把握が必要な局面でも、誰かの主観ではなく「世間一般から見て妥当と判断される価格」、即ち「公正価値」に基づき判断を行うことが妥当であることは言うまでもない。
株式の場合も同様に……
実は上記の理屈、非上場株式の場合も同様なのである。つまり、上場株式は株式市場の時価が「世間一般から見て妥当な価格」と扱われるが、非上場株式の場合は市場の時価はない。但し「世間一般から見て妥当と言われる公正価値査定の理論的な手法」はあるので、これに基づき「世間一般から見て妥当と判断される価格」を決定し意思決定の参考に供することはできる。そしてこれこそが、株式の鑑定評価の本質なのである。
不動産でも非上場株式でも同様だが、肝は「売り手と買い手が合意すればいくらで売買してもよい」けれど「世間一般から見て妥当と判断される価格」を把握して行動した方が良い結果が期待できるから、これを把握する行為、即ち「鑑定評価」を行うという点だ。
この説明なら、一般の方にもご理解頂けるものと確信している。皆様の業務で、何かの参考にしていただければ幸甚である。
(文/冨田建 公認会計士・不動産鑑定士、記事提供/株式会社エスタイル)