マクドナルド原田氏がベネッセへ
久々に驚いた新社長人事だった。
日本マクドナルドホールディングスの原田泳幸・会長が6月21日付で、「進研ゼミ」でおなじみのベネッセコーポレーションの新社長に就任するというのだ。こちらのコラムでも以前紹介したように、原田氏は2004年、アップルの日本法人社長からマクドナルドに移籍。一時は倒産の可能性まで取り沙汰されるほど業績が低迷した同社を、外資流の合理的な手法を持ち込んで再建した。昨年8月に社長職からの退任を発表していたが、コンピューター業界から外食産業に転身した10年前と同じく、今度も畑違いの教育産業に籍を移すとあって、新たな原田マジックが繰り出されるのか注目される。
なぜベネッセに移籍するのか?
かつてのマクドナルドのように、ベネッセの業績は目立って落ち込んでいるわけではない。ここ3期(11~13年3月期)を見ても、4,128億→4,237億→4,501億円と伸びてはいる。一見すると、剛腕経営者をヘッドハントする状況にないように見えるが、実はひそかにピンチの兆候はあった。主力の「進研ゼミ」の会員数が昨年4月に385万人と前年比で6%も減少。これは「前年比24万人もの減少は過去最大」だったという(2014年4月4日、日経新聞電子版)。学習塾との競争が激しくなったことや、リクルートなどの異業種が参入して受験生向けにスマートフォンやタブレット等のデジタル教材を展開。もちろん少子化という構造的な課題もある。
紙の教材が主体だった進研ゼミについては、今春からデジタル化を本格化している。すでに中学1年向けに先行していたタブレット教材配布を、小学生や高校1年生にも拡大する。私も子ども時代に受講していた時期があるが、提出した答案が「赤ペン先生」に添削されて帰ってくるまで半月程度はかかっていた記憶がある。これがデジタル化すると質問して翌日には返答がある。しかも、子どもだと「何が分からないのか説明できない」場合もあるが、中学講座では、タブレットに搭載された「質問カメラ」で問題ごと撮影できるというから、時代の流れを感じる。デジタル化により、映像などでビジュアライズされたコンテンツが提示できるので、算数の図形や歴史などが分かりやすくなるメリットもある。
会計人は打ち手に注目を
近年の教育現場でのデジタル化は目覚ましい。全国学力テスト日本一の秋田県のなかでもトップクラスという八峰町は、2013年度から小中学校すべての教室でデジタル教科書と電子黒板を導入した。映像や画像を使った教材で子どもたちが具体的なイメージをもって学べるデジタル教育の利点を最大限に活用。小学校で「自分の家の仕事」というお題の作文の宿題が出たとき、児童はタブレットで保護者が仕事をしている様子を撮影した上で、作文に取りかかるなどの「効果」が出ているという。すでに韓国では、2015年に小・中・高すべての学校でデジタル教科書導入を目指しており、日本でも公教育、民間教育ともデジタル化がますます進むのは間違いない。
原田氏を迎えたベネッセはどのような打ち手に出るのか。マクドナルド時代の取り組みを見ると、24時間店舗の推進は、資産の稼働効率の向上。そして「100円マック」に代表されるバリュー戦略は、価格の弾力的な運用と見ることができる。業種の垣根を超えても共通する要素を導き出しただけに、また驚かせてくれるのではないだろうか。会計人、特に経営コンサルやM&A関連業務に携わる方は同社の財務諸表等の業績から観察するだけでなく、その経営手法を注目していくと経営眼が磨かれるはずだ。
(文/新田哲史=コラムニスト、記事提供/株式会社エスタイル)
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