平成25年税制改正で変更され、今年の所得税確定申告分から適用された制度として、サラリーマンが支出した必要経費を所得から控除する「給与特定支出控除」の拡充があります。
サラリーマンに必要経費の意識がない理由
「クロヨン」「トーゴーサン」という言葉に表れるように、サラリーマンは所得のほぼ100%が捕捉されるにもかかわらず、必要経費の実額を収入から控除することができません。その税制を違憲と訴えた「サラリーマン税金訴訟」は有名な話です。
とはいえ、サラリーマンには給与所得控除があり、必要経費が実額で認められたとしても、給与所得控除を超えることはほとんどない事も事実です。捕捉率の格差の問題は残るものの、サラリーマンの必要経費は手厚く認められているともいえるでしょう。
そして、昭和60年のサラリーマン税金訴訟の最高裁判決後、昭和63年に給与所得者の必要経費を実額で計算できる制度が創設されました。それが「給与特定支出控除」。同制度は、給与所得者が支出した、通勤費や転勤などによる転居費、研修費などを収入から控除できるというものです。
平成24年までの同制度では、必要経費が給与所得控除を超えた額を控除することができました。しかし、やはり給与所得控除の額を超えることはまれで、また経費になる費用の範囲が狭いこともあり、年間の利用件数がなんと「一けた」になることもありました。要するに、まったく使えなかったのです。
そこで25年改正では、必要経費が給与所得控除の半額を超える場合、超過額の還付が受けられるようになりました。また、該当する費用の範囲も広げられています。
税理士・公認会計士スクールの授業料が経費に
読者の皆様の中には「なぜ25年度改正の話をいまさらするの?」と疑問を感じた方もいらっしゃるでしょう。それは、会計事務所の職員のみなさんに、今年の確定申告で同制度を利用した人がいらっしゃるか、ということを聞いてみたいからです。
実は、今回の新制度の利用が期待できそうな数少ない方の中に、会計事務所の職員がいます。
というのも、同改正では必要経費にできる費用として、新たに「弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費」が加えられたからです。会計事務所の職員の多くは、税理士、会計士を目指し、資格スクールに通って仕事と勉強を両立させています。
たとえば、収入400万円の場合、給与所得控除は134万円。必要経費が67万円を超えた場合、同制度が利用できます。資格スクールの授業料に加え、同じく新たに範囲に加えられた図書費、スーツや靴などの衣服費等を加えると、還付を受けられる可能性が出てくるのではないでしょうか。
また、特定支出を控除するには、給与の支払者が必要経費であることを証明する必要がありますが、会計事務所の所長は税の専門家。すぐに事情を理解してくれるはずですし、証明をしても所長自身の懐が痛むわけではありません。証明をもらうハードルは他業種よりも低いと思われます。
率直に言って、還付を受けられるとしてもたいした額ではないでしょう。しかし会計・税務に携わる者として、従来利用者が一けただった税制を自ら利用する経験は貴重です。確定申告をしたことがない人も多い“未来の会計人”に、「話のネタ」以上の、何らかの示唆を与えてくれるのではないでしょうか。