国税庁によると、平成25年分の所得税確定申告で、同年分から申告がスタートした復興特別所得税の税額を空欄のまま申告する事例が多発。記載漏れの件数はなんと45.7万件にのぼったと報道されています。
手書き申告書の落とし穴、ばかにできない行政コスト
復興特別所得税は、所得税に基準所得税額×2.1%で計算される税額を加算するもの。所得税の申告書では、所得税額を計算したあと、別欄で復興税の税額を記載する形となっています。
税額の記載漏れは、加算が自動的に行われるe-Taxや税務署のパソコンによる確定申告書作成コーナーでの申告では起こりえない間違い。大半は、手書きで申告書を作成、自身で税額を計算したケースで起こったと思われます。
おそらく、ほとんどの納税者に悪意はないでしょう。その方々は、そもそも自ら確定申告書を提出している納税者であり、するべき税額の記載をわざとしないという、わかり易すぎる「脱税」を行うとは考えにくいためです。
数十万人が記載を間違える事態は、納税者の責任もあるでしょうが、行政側に初期の読み違いがあったと言わざるを得ません。復興税が適切に徴収できず、しかも通知や指導、徴収等の行政コストで、税収がボロボロこぼれ落ちてしまうのは残念な顛末です。
IT依存の税理士も気を引き締める機会に
そして、ここで私が気になるのは「記載漏れの中には税理士が関わった申告もあるのではないか」ということです。
税理士が税務を代理している顧問先であれば、ほとんど自動的に税額が計算される形式で税務を行っていると思われます。しかし、確定申告書作成の支援事業で、パソコンが使えない納税者に対し、税理士が手書き申告書の作成を手伝うこともあります。
税務署で行う無料相談等では、ほとんど税金について要領を得ない方を含め、次々に手書きの申告書作成の相談を受けます。そこで、税理士が復興税に関するアドバイスを忘れるミスをしてしまう可能性は十分にあります。
今回の事例では、原則として過少申告加算税は課されないようですが、のちに納税者に延滞税を乗せた納税が指導されれば、「税理士の言うとおりにやったのに」と不満が募るでしょう。
税理士の世界もIT化が進み、税額の計算が自動的に行われることにすっかり慣れてしまっています。手書きの申告書を作成する、あるいは指導する機会があると、結構緊張するものです。
復興特別所得税は、平成49年まで課税されることになっています。そのあいだに、パソコンによる申告書の割合が自然に増えるのは間違いありませんが、手書きの申告書がゼロになることはないでしょう。税理士も、時折手書き申告書を見ることで「原点回帰」する必要があると感じた次第です。