国税庁はこのほど、国税局の査察部、いわゆる「マルサ」の1年間の調査概要を発表。185件の調査で、脱税の総額は145億円と、昭和49年度以来最も少ない記録となりました。このうち検察庁に告発した事案の1件当たりの脱税額は9900万円と、こちらも非常に低い数字を記録しました。
通常の税務調査とまったく異なるマルサの調査
映画「マルサの女」等の影響でこの言葉が一般化してから、一般の方が、税務調査について「マルサが入る」という言葉を使う場面が多くみられるようになりました。しかし、マルサの「サ」は査察の「査」。査察が動くのはごくごく一部の大口の脱税事件が疑われる時だけです。
査察の調査は検察への告発を前提に行うもので、脱税者を逮捕、起訴し、刑罰を受けさせるための調査といってよいでしょう。ほかの部署で行う任意調査と異なり、警察のような強制捜査権を持っています。
私はよく顧問先にマルサについて聞かれた際「『引き出しを開けてください』と頼むのが通常の調査、いきなり机をハンマーで叩き壊すのがマルサの調査」と説明しています。
税理士の見識が問われる「マルサ」の定義
顧問先から、通常の税務調査について「マルサが入るのでしょうか」といった質問を受けた場合、言葉の定義についてやんわりと訂正しなくてはなりません。
その社長が周りに「税理士にマルサが入ると言われた」と吹聴すれば、その会社が悪質な脱税をし、それを税理士が指南をしていると言っているようなもの。税理士の見識が問われます。壁に耳あり障子に目ありですから注意しておきたいものです。
1億円のラインを下回ることの意味は?
さて、そのマルサには「脱税額1億円以上を見込む事案で動く」という都市伝説があります。何ら法律的な裏付けはない基準ですが、1億円は脱税により起訴されるラインとも言われ、検察への告発を目指して調査する査察調査の基準としても説得力があります。
そこで今回発表された調査概要を見ると、告発事案の1件あたりの脱税額は9900万円。「目標値」に達していません。この額が1億円を下回ったのは35年ぶりです。告発を行わなかったものを含むと1件あたり7800万円で、これも最近数年間は1億円を下回っていませんでした。単なる平均値であり、象徴的な数字に過ぎませんが、当局内でも話題になっているのではないか、と想像しています。
脱税額の読み違い、脱税の巧妙化もあるのかもしれませんが、それよりも経済の低迷による脱税犯の小粒化で査察が動く機会が減り、マルサ案件のしきい値が低くなっていることが見て取れます。
いずれにしろ、まっとうな税理士には査察は無縁の存在ですが、マルサをはじめとした国税組織の意味付けが今後変わっていく可能性があるということは、税の専門家として注視しておくべきかもしれません。